本当にあった会社でのうれしい話~ゲイの後輩の報告~
多くの企業において、社員が結婚した場合に会社から結婚祝い金が支給される仕組みがあります。従来、この結婚祝い金は法律婚をした異性のカップルに限られていましたが、近年その配偶者の定義を同性カップルにも適用しようという動きが様々な企業で起きています。
現在の法律では残念ながら同性カップルは法律上の結婚(同性婚)をすることはできません。そんな中で、企業内だけであっても同性カップルを異性のカップルと同じように扱う動きが増えてきたのはとても嬉しいこと。
とはいえ、まだまだすべての企業で実施されているわけではなく、前例がないというところも多いでしょう。
今回は前例のない同性カップルに対する結婚祝い金の導入に関して、実際に起きたとある企業のエピソードをマンガでご紹介します。
今回のエピソードを寄せてくださった方も、実際に女性同士で交際をしている方でした。しかしその方自身、まわりで結婚をする同僚が少なかったことや、同性カップルが祝い金をもらえるとは思いもよらなかったことから、部長に言われるまで社内の規定について考えることはなかったと言います。
だからこそ、上司がパートナーシップ制度を結んだ同僚のために動いてくれたことはとても嬉しかったそうです。
社内規定など、目に見える形で多様な性のあり方を尊重する姿勢を示すことは、社内のカミングアウトをしていない当事者にとっても、とても勇気づけられること。制度の面を整えていくことは、そういう意味でとても重要なのです。
同性カップルへの結婚祝い金を支給する企業が増えてきたとはいえ、まだまだ多くの企業では同性カップルは異性カップルと比較すると様々な面で扱いに差があるのが現状です。そうした会社の中で自分らしくすごせないと感じるLGBTQ+当事者は、きっと日本中で多く存在します。
同性カップルに対する結婚祝い金のほかにも、企業のなかで必要とされる制度やサポートはたくさんありますが、一方でそれらが十分に整備されている企業というのはまだまだ限られている現状も…。
具体的な例を通して、起こりうる課題や問題を考えていきます。
LGBTQ+へのサポートが不十分な例
①職場でハラスメントが横行している
職場でLGBTQ+に対する偏見や差別意識が残っていることで、様々な問題が起こる可能性があります。
・LGBTQ+当事者が安心して働くことができず、休職や離職率が上昇する
・アウティングを含むハラスメントが起こる
・多様な視点がないままサービスや広報が展開されてしまう
2020年6月に施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)では、アウティングもパワハラに該当することが明記され、中小企業を含む事業主のパワハラ防止措置が義務化されました。
企業の中で起こりうるハラスメントには様々な形がありますが、LGBTQ+に関する偏見や差別をなくしていくことは各企業に強く求められるようになってきています。
②性自認に沿った扱いをされない
トランスジェンダーやノンバイナリー当事者は、その移行の状況や意思は個別に異なります。
法律上の性別を変更している人もいますが、現在の日本の法律では法律上の性別を変更するハードルは非常に高く、性自認に沿ったジェンダーで社会的な生活を送っている場合でも法律上の戸籍とは一致していない方も多くいます。
・性自認や社会生活を送っているジェンダーに沿わないトイレの利用が求められる
・健康診断を受けるハードルが高い ・日常的にまちがった性別で扱われることで精神的な苦痛を感じてしまう(ミスジェンダリング)
2023年7月には、法律上の性別を変更していないトランスジェンダー女性職員の女性トイレ使用を制限した問題で、最高裁が「違法」と判決を下したニュースも話題になりました。
性自認やトランスジェンダーに関する正しい知識がない状況では実情に即さない不安や懸念が蔓延し、当事者が適切なサポートを受けられない可能性があります。
③パートナーシップ制度がない
・結婚関係にある異性カップルであれば利用できる配偶者に関する福利厚生が利用できない
・転勤や異動に関して、同性パートナーの存在が考慮されない
結婚祝い金のほかにも、異性の配偶者であれば適用される福利厚生が同性カップルに適用されていない企業はまだまだ多い現状があります(具体的には、家賃補助や社宅制度、慶弔休暇や見舞金など)。
そもそも現在の日本では戸籍上同じ性別のカップルが法律婚をすることができませんが、これは国が「同性カップルは異性カップルに比べて劣っている」とメッセージを出しているのと捉えられます。
逆に言うと、会社としてパートナーシップ制度を整備することは「従業員を大切にする」という態度表明になるのではないでしょうか。
全従業員が安心して就業できる環境を整えることは、人権の尊重という最重要ポイントのほかに、企業にとっても多くのメリットがあるはずです。
制度を整えることの大切さ
今回のエピソードは、LGBT研修を受ける前までは同性カップルの権利などに関心の低かった部長が、パートナーシップを結んだ部下のために社内の規定を変えようとする、というとても希望に満ちたものでした。
この部長がLGBT研修を受けるまでの前日譚的エピソードは、パレットーク著『マンガでわかるLGBTQ+』に収録されています!あわせてチェックしてみてください。
「LGBT研修なんてやって意味があるの?」という意見を持っている人がいるかもしれませんが、会社内にいるかもしれない当事者の存在や、当事者が直面している困難などについて知ることは、会社やチーム全体の問題として捉えるためにとても大切なのです。
そもそも「会社内にはいないだろう」と思い込んでいたり、「実際にどんなことに困っているか」を知らかったりすれば、問題が存在していることすら気づくことはできません。そんな空気の中で、もしかしてメンバーのパフォーマンスは下がってしまっているかもしれませんよね。
「自分らしくすごせる」というのは、チームとして仕事をしていく上でとても重要なこと。もちろん多様性を尊重する環境を作ることは、なによりも人権や平等の問題なのですが、企業の目線で見たときにも大きな意義があるのです。前例にとらわれず、ともに働くメンバーの多様性を尊重できる企業や経営者が、これからもっと増えていくといいなと思います。
マンガの中に登場した部長がLGBT研修を受けるまでの前日譚的エピソードは、パレットーク著『マンガでわかるLGBTQ+』(講談社)に収録されています。あわせてチェックしてみてください。