デミロマンティックという言葉を知った私の話。
主人公のルリが好きになった人と並んで歩いているイラスト。人生で、人を恋愛感情で好きになったのは2回だけ。 と言っても、自分の「好き」になり方はなんだか周りのみんなと違う気がする…。大学のカフェにて、ちらっとこっちを見ている男子学生。それに気づいてヒソヒソとルリに伝える友人A「ほら、こっち見てる!彼、ルリのこと気になるって言ってたよ!」ルリ、困惑しながら「ええ…まじ…?」数回しか話したことないのに、なんで私のことが気になるのか不思議でたまらない。
ルリ「相手が嫌いなんじゃなくて、なんですぐ恋愛感情がわくのかが わからない…そもそもみんな、そんな短期間で 相手のこと好きになるもんなのかな…よく知らない男性にアプローチされてもなにも感じないし、むしろちょっと迷惑と思っちゃうな...う〜ん…男の人にドキドキしないってことは、私ってレズビアンだったりするのかな?」
ルリ「たしかに、 中高で5年間一緒に部活をがんばった親友のことは本気で好きになったな〜...彼女のことは誰にも渡したくないと思っていたし、あれは今思い返すと恋愛だったな〜。あ、でも、ずーっと一緒に遊んでた近所のお兄ちゃんにも恋愛感情を抱いたことが あったな...ってことはレズビアンではないか...でも、親しくない男性に好きですと言われても困るし…」よし困惑するルリ。
ルリ「私の恋愛感情ってどんな動きをしてるんだろう…?」レズビアン?バイセクシュアル?アロマンティック?好意を向けられたくない?でも人を好きになるときもある…。ルリ「う〜〜〜んわかんない…!とにかく面倒くさいから、 恋愛話を振らないでほしい!この中で誰がタイプ?とかもやめてほしい!興味ないし、興味ないことに興味を持たないでほしい〜!自分のことなのにわからない〜!」
しばらくして、友人Bとご飯を食べながら。友人B「それ知ってる〜、デミロマンティックってやつじゃない?」ルリ「デミ…?なに…?」友人B「なんか、ほんと〜に内面的に絆や繋がりを持った人にだけ稀に恋愛感情を持つ人のことらしいよ、ルリはまったく恋愛しないわけじゃないから、それかもね」ルリ「へ〜…セクシュアリティって好きになる対象だけじゃなくて「好きになり方」も関係するんだね...」
検索してみて、驚いた。ルリ「デミロマンティック…えっ!めっちゃ出てくる…!」いろんな人のブログなどを読んで、「私じゃん!」と思った。「自分だけじゃない」そう思えることは とても心強かった。デミロマンティックという言葉を知ることができてよかった私の話。「私だけじゃないんだ〜な〜んだ!」と安心した顔でベッドで大の字になるルリ。おわり。

【マンガで解説】デミロマンティックという言葉を知って、しっくりきた話

みなさんは、「デミロマンティック」という言葉を聞いたことがありますか?

デミロマンティックとは、相手との信頼関係がある場合にのみ恋愛的な惹かれ(恋愛感情)を覚えることがあるというあり方のことです。

近年、Aセクシュアルなど性的な惹かれを経験しない性のあり方に対する認知度は少しずつ高まってきたようですが、デミロマンティックについてはよく知らない方も多いかもしれません。

今回はこの「デミロマンティック」について、マンガを通して解説したいと思います。

恋愛的指向って?

デミロマンティックについて理解するにあたってまず知っておきたいのが、「恋愛的指向」という考え方です。

恋愛的指向(romantic orientation)とは、個人がどのような性のあり方に恋愛的に惹かれるか、もしくは惹かれないかというパターンを表す概念です。

「どのような性のあり方の人に恋愛感情が向くか」という点や、その感情の「抱き方」などを表す言葉として、以下のようなアイデンティティが恋愛的指向に含まれます。

恋愛的指向の例(ごく一部)

  • Aロマンティック(Aromantic):性のあり方にかかわらず、他者に恋愛感情を抱かない
  • バイロマンティック(Biromantic):男性と女性に恋愛感情を抱く
  • ヘテロロマンティック(Heteroromantic):異性に恋愛感情を抱く

デミロマンティックは恋愛感情の「抱き方」を表すため、このような恋愛的指向のひとつであると考えられています。

デミロマンティックとは?

冒頭でも触れた通り、デミロマンティックとは相手との信頼関係がある場合にのみ恋愛的な惹かれ(恋愛感情)を覚えることがあるという恋愛的指向です。

デミロマンティックには当てはまらない人であっても、「一目惚れはしない」「友達を好きになることがある」という人もいると思います。

ただしデミロマンティックの人は単に「一目惚れしない」だけではなく、普段は恋愛的に惹かれること自体が基本的に起こらず、強い信頼関係を築いた後でなければ恋愛感情が芽生えないという点が特徴です。

デミロマンティックの人は恋愛感情を抱く機会が限られているため、恋愛的惹かれを経験しない狭義のAロマンティックと、恋愛的惹かれを経験するロマンティックの間に広がるグラデーション(アロマンティック・スペクトラム)の一部とみなされることが多いです。

信頼関係を構築した相手にのみ恋愛感情を抱くデミロマンティックとは反対に、深い関係性がない他者にのみ恋愛的に惹かれ、関係が深まるにつれて恋愛的魅力を感じなくなる恋愛的指向は「フレイロマンティック(Frayromantic)」と呼ばれます。

デミロマンティックに対する誤解・偏見

デミロマンティックは最近でもまだまだよく知られていないため、多くの誤解や偏見が残っています。

感情がない/冷たい

デミロマンティックの人は、恋愛感情を抱くまでに時間がかかるだけで、感情がないわけではありません。恋愛的な惹かれ方には人それぞれ違いがあり、誰もが同じ形で恋愛するわけではありません。

恋愛経験が足りていないだけ 

デミロマンティックは恋愛的な惹かれをどう感じるかについてのアイデンティティであるため、恋愛経験の多さや「モテる」かどうかは関係ありません。たとえ恋愛経験が豊富でも、深い絆がなければ恋愛感情が生まれないのがデミロマンティックの特徴です。「デミロマンティック=経験不足の言い訳」という考え方は誤解です。

「普通」と変わらない/わざわざ区別する必要がない

デミロマンティックでない人の中にも「一目惚れ」をしない人は多いかもしれませんが、デミロマンティックの人はさらに恋愛感情が生まれるまでに時間をかけて強い絆を育む必要があるという点で、その経験は異なります。またマンガにあったように、「デミロマンティック」という言葉があることは、自身の恋愛感情の感じ方に悩んでいる人たちが、同じような経験をしている仲間と出会うきっかけになるという点で重要です。

さいごに

「彼氏いるの?」「まだ独り身?」のように、人の恋愛についてあれこれ口出しするような風潮は最近では少なくなってきましたが、恋愛をすることを「あたりまえ」とする感覚はまだまだ根強いようです。

最近でもあまり知られていない「デミロマンティック」をはじめとする多様な「恋愛的指向」について、正しく知ることから始めてみませんか?

パレットークでは、デミロマンティックの方の体験談を随時募集しています。こちらのフォームよりお寄せください。

参考
https://glaad.org/reference/terms/
https://lgbtq.unc.edu/resources/exploring-identities/asexuality-attraction-and-romantic-orientation/
三宅大二郎・今徳はる香・神林麻衣・中村健,2024,『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシュアルのこと』明石書店.