法律婚をしていなければ生殖医療から除外?SRHRの定義から考える法案の課題

SRHRとは、【Sexual and Reproductive Health and Rights】 の頭文字をとったもの。日本語では、「性と生殖に関する健康と権利」と言われます。

SRHRの尊重と推進は、ジェンダー平等な社会を実現していくうえで必要不可欠なテーマとなります。しかし、日本を含めてSRHRが十分に保障された社会とは言いがたい現状が多く残っているのも事実です。特に生殖医療をめぐって、法律上女性同士のカップルやシングルの女性などのSRHRの実現と逆行するかのような法案に関するニュースが話題になっています。

たとえば、日本ではまだまだ選択できる避妊方法が限られていること。また望まない妊娠があったときに、安全な中絶方法が選びづらいこと。そして、子どもを持ちたいと思う人が安心して妊娠・出産できないこと。

パレットークではレズビアン可視化週間に合わせて発信を行ってきましたが、今回の記事ではあらためてSRHRについてご紹介しながら、法律上女性同士のカップルを含めて多くの人にとってのSRHRに大きな影響のある「生殖医療のあり方」について考えていきたいと思います。

妊娠・出産だけじゃないSRHRの意味

「性と生殖に関する」と聞くと、まず「妊娠や出産」を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。実際、妊娠や出産は非常に重要な要素のひとつですが、SRHRはそれ以外にも様々な切り口を含んだ概念です。

国際家族計画連盟は、SRHRを具体的に以下のように定義しています。

国際家族計画連盟によるSRHR(性と生殖の健康と権利)の定義を示した画像。内容は以下の通り:  自分の身体は自分のものであり、プライバシーや個人の自主性が尊重されること  自分の性的指向、ジェンダー自認、性表現を含めたセクシュアリティについて自由に定義できること  性的な行動をとるかとらないか、とるなら、その時期を自分で決められること  自由に性のパートナーを選べること  性体験が安全で楽しめるものであること  いつ、誰と、結婚するか、それとも結婚しないかを選べること  子どもを持つかどうか、持つとしたらいつ、どのように、何人の子どもを持つかを選べること  上記に関して必要な情報、資源、サービス、支援を生涯にわたって得られ、これらに関していついかなる時も差別、強制、搾取、暴力を受けないこと  下部に参考URL(https://www.ippf.org/sites/default/files/2019-10/ja_ippf_technical_brief_srhr.pdf)が記載されている。画像の左右には人物イラストが配置されている。

この定義からもわかるように、「性と生殖の権利」は避妊や中絶、妊娠に関わる直接的な医療の問題だけでなく、

  • 選択肢が誰にとっても選びやすいものになっているのか
  • 様々な情報にアクセスできる状況になっているのか
  • 性に関連する選択や、性のあり方によって暴力や差別を受けることがないか

という範囲も含んでいます。

特に、最近ニュースでも話題になった「生殖医療のあり方」について考えるうえでこのSRHRの観点は避けることができません。

子どもを産み育てるのは、結婚した異性のカップルだけ?

生殖補助医療のあり方について考える超党派議員連盟が、第三者からの精子提供や卵子提供を使った不妊治療について、新しい法律の最終案を示しました。

法案には次のような内容が含まれています。

  • 対象は法律婚の夫婦に限定する
  • 事実婚や同性カップル、独身女性などは除く
  • 法律婚以外のカップルらに医療を実施した医療機関には罰則

参考:https://mainichi.jp/articles/20241007/k00/00m/040/183000c
https://nordot.app/1215861152673726788

この法案はつまり、不妊治療を「法律上で結婚している異性のカップル」のみに限定するというもの。事実婚や法律上女性同士のカップル、独身で子どもを産み育てたいと考えている人が安全な生殖医療を受けられなくなる可能性が浮上しているのです。

もしもこの法案が通ってしまうと、法律婚をしていない人が子どもを産みたいと思った場合にも適切な医療機関で不妊治療を受けることができなくなってしまいます。

たとえば女性同士のカップルの場合には、第三者からの精子提供を受け生殖医療を利用する必要がありますが、これが禁止された場合、医療を介さない個人間の精子取引しか選択肢がなくなってしまいます。

現時点でも、法律上女性同士のカップルなどの生殖医療は法律や制度できちんと保証されておらず、多くの子どもを望むカップルが困難に直面しています。この法案が成立してしまうと、SNS上で素性のわからない相手からの精子提供を受けざるを得なくなるなど、これまで以上にリスクが高まってしまいます。

事実婚カップルやシングル女性を含めて、たとえ子どもを産み育てることを望んだとしても諦めざるを得ない状況が生まれてしまうのです。

諸外国での生殖医療のあり方

世界では、結婚をしていないカップルや同性カップル、独身女性の生殖の権利が保障された国がたくさんあります。

たとえば、デンマークでは2006年から生殖医療の対象として、シングル女性やレズビアン女性も含まれるようになりました。スウェーデンでは、2005年からレズビアン女性がすでに生殖医療の対象でしたが、2015年にはシングル女性にも拡大されました。

最近では2021年、フランスで異性カップルに限定されていた生殖医療がレズビアン女性・シングル女性も利用できるように法改正されました。

このほかに英国やアイスランド、またスペインなどのEU加盟国でも、既婚、独身を問わず女性が精子提供を受ける権利が認められています。

参考:https://www.bbc.com/japanese/57661435
https://hibino.w3.kanazawa-u.ac.jp/map/denmark
https://hibino.w3.kanazawa-u.ac.jp/map/sweden
https://kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-15K03246/15K03246seika.pdf

超党派の国会議員連盟が示した法案の最終案は次の国会で提出される方針です。

そもそも日本では、現状で法律上同性同士のカップルの法律婚が認められていません。しかし当然、子どもを持ちたいと思う法律上同性同士のカップルはたくさんおり、今の制度の中で困難に直面しながらも実際に子育てをしている人もたくさんいます。

今回、さらに新しい法案によって「法律上の婚姻関係にあるかどうか」、その一点のみで生殖に関する重要な権利を奪われてしまう人が生まれてしまう可能性が高まっているのです。

  • いつ、誰と、結婚するか、それとも結婚しないかを選べること
  • 子どもを持つかどうか、持つとしたらいつ、どのように、何人の子どもを持つかを選べること
  • 上記に関して必要な情報、資源、サービス、支援を生涯にわたって得られ、これらに関していついかなる時も差別、強制、搾取、暴力を受けないこと

先ほどもご紹介したSRHRの定義のなかでも、特にこの3つの要素をあらためて考えてみる必要があるのではないでしょうか。

すべての人のSRHRを守るために

少子高齢化の問題が叫ばれる今日の日本で、子育て支援の重要性は高まっています。しかし、今回の法案はそうした社会課題解決の道からも逆行するもの…。また、SRHRが守られる社会への道にも真っ向から逆行する内容です。

「避妊や中絶へのアクセスは人権」

自分の身体のことを自分で決められる社会にしていくために、一緒に学び考えていきませんか?

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https://zenninnet-sos.org/contact-list

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