【イベントレポート】「自分らしさ」をまとう選択 ― トークイベントから見えた、身体と心、社会との向き合い方 #PR

バストフラットインナー「Nstyle」が試着・販売イベントを大阪で初開催
2025年4月5日と6日の2日間、バストをつぶさずフラットに見せるバストフラットインナーの「Nstyle」が、はじめて大阪で試着・物販イベントを実施。
「Nstyle」の試着や購入だけでなく、「自分らしいスタイルと生き方」や「コンプレックス」などをテーマにした2つのトークショー、「Nstyle」とパレットーク編集部のコラボで作られたモヤモヤコメントコーナー、「Nstyle」メンバーの選書コーナーが設けられました。本を片手に意見交換をする方や、ご自身の性のあり方やバストに関するモヤモヤを話し合う方、自身の今感じているリアルな言葉が紡がれ、和気あいあいと共感が響き合う2日間となりました。この記事では、2つのトークイベントの内容を中心に、大阪初のバストフラットインナー「Nstyle」が試着・販売イベントについて、紹介していきます。
トーク①「谷川彩莉さんと話す、自分らしいスタイルと生き方」
合田: 「まずは谷川さんにお伺いしたいのですが、身体への違和感や『バストをフラットにしたい』と感じ始めたのはいつ頃でしたか?」
谷川さん: 「小学4年生くらいですかね。それまではメンズのお下がりを着ていたけれど、さすがにそのままじゃいられないな、と。その中でもかっこいいスポーツブランドのスポブラをお母さんと探しに行くんですけど、ブラ売り場に行くこと自体が嫌でしたね」
合田: 「その感覚、会場にも共感する方が多いようです。胸つぶし、いわゆる、ナベシャツを手に入れたときのエピソードも、お伺いできますか?」
谷川さん: 「中学2年生のときに、ブログでナベシャツの存在を知ったんです。でも家族には頼めなくて。ボーイッシュな友達に頼んで、その子の家宛に送ってもらって、初めてゲットしました。次の日早速着て、友達と遊びに行ったら『あれ?なんか今日、胸なくない?』って言われて。『わかるんや!』って、すごく嬉しかったことを覚えています」
合田: 「実家だと注文しづらい、というのは今もよく聞く話ですよね。上山さん『Nstyle』はその点、お家の方にも伝えやすいという側面もあるのでしょうか?」
上山さん: 「『家族の方に伝えやすいものにしたい』という思いはありました。胸つぶしだと買うこと自体がカミングアウトになる可能性もある、という声も聞いていたので。『Nstyle』はパッと見、スポブラのようにも見える。特定の意図が分かりにくいデザインにすることで、使ってくださる方にそっと寄り添えたら、と」
合田: 「谷川さんは『Nstyle』を使ってみて、いかがでしたか?」
谷川さん: 「本当に衝撃でした。ホックできつく締め付けるナベシャツは、やっぱり苦しい。『Nstyle』は最初『あんまりフラットにならないのでは?』と思ったけど、つけてみたら『これはしっかりフラットにしてくれるし、気持ちいいぞ!』と。感動しました」
上山さん: 「ありがとうございます。開発時に従来の胸つぶしを試着したら、社員みんなギブアップで…。『これを着て一日過ごすのは、相当きついはずだ』と。でも身体や性のあり方についての悩みを解決するために、これ以外に選択肢がない人もいるはず。体育も給食もある10代の子たちが使っている現実を知って、快適性を一番に考えよう、と決めたんです」

登壇者:左から、合田文(パレットーク編集長・司会)、上山和泉さん(Nstyleブランドディレクター)、谷川彩莉さん
合田: 「続いてカミングアウトについてですが、谷川さんは成人式を前にご両親に伝えられたと伺いました。どのような心境だったでしょうか?」
谷川さん: 「振袖を着るのか、スーツを着るのか。成人式は家族と関わる最後のイベントだと思って、これはどうしようかと。それまでの20年間、親から否定された感覚はなかったけど、性のことを親に話す行為自体に、やっぱりすごく勇気がいりました」
合田: 「自身のセクシュアリティを誰にも話したことがないという人もいますが、『仲の良い友人には話せるけれど、家族には話せない』と感じている人は少なくないはずです」
谷川さん: 「僕の場合、お母さんは『分かってたよ』と。性別の違和感は誰かに変えられるものじゃないからしんどいよね、と共感してくれて。男だろうが女だろうが大事な子どもに変わりない、と。お父さんも多くは語らないけど、理解しようとしてくれていました」
合田: 「なるほど…。谷川さんは、ご自身の受け入れがたい部分も『一緒に生きていく』というふうに仰っていましたが、どのように向き合っているのですか?」
谷川さん: 「『なんで女で生まれたんだろう』と自分を責めてしまったこともありましたが、すべて含めて、自分なんだと。向き合い方としては『変えられないものは受け入れて大切にする。変えられるものは、どんどん変えていく』ということを大切にしています。僕の場合は、トレーニングやファッション、学び続ける姿勢などを変えてきました。学生時代は『誰よりもかっこよくなる』がモチベーションだったけれど、今は『自分が自分にいいね』と思えるかが、大事だと思っています」
谷川彩莉さん プロフィール
大阪体育大学を卒業後、保健体育教員として働き、今は講演活動を行っている谷川さんは、幼い頃から抱いていた性別への違和感や葛藤の経験をもとに、ありのままの自分や他人を受け入れる大切さを伝えています。
トーク②「ツルリンゴスターさんと話す、自分のコンプレックスとの向き合い方」
合田: 「2つめのトークでは、漫画家のツルリンゴスターさんをお迎えしました。上山さんが『下着に関わる全人類が読むべき!』と絶賛する『ランジェリーブルース』の作者でもいらっしゃいます。このトークのテーマでもある、コンプレックスを意識したきっかけについて教えていただけますか?」
ツルリンゴスターさん: 「女子校に通っていた中高生の時、周りから『友達になりたいって思われたい!』という気持ちがあって、それが『だったら、かわいくて細くならなければ』ということに繋がってしまったんですよね。思春期で肌荒れがあったのに、1日に5回洗顔したり…。『痩せなきゃ』とか『綺麗にならなきゃ』とか、完全に『思わされていた』んですよね」
合田: 「『高校生の頃、男子の間で胸が大きい子ランキングが回ってきてショックだった』というコメントも、参加者さんからリアルタイムに届いています。これは本当にショックだと思います…。相手をジャッジしてもいい、からかって笑いものにしてもいい、という是正されるべき風潮から、コンプレックスが生まれることも多いですよね」
上山さん: 「私も下着業界で働きながら、『世の中から、いかにコンプレックスを煽られているか』を痛感することがあります。だからこそ、『コンプレックスを解消するために、これを買ってください』というようなモノの売り方はしたくないな、と」

登壇者:左から、合田文(パレットーク編集長・司会)、上山和泉さん(Nstyleブランドディレクター)、ツルリンゴスターさん
合田: 「『ボディポジティブ』は、自分の身体をありのままに受け入れ、愛そうというムーブメントのことだと言われますが、ツルリンゴスターさんが考える『ボディポジティブ』とは何でしょう?」
ツルリンゴスターさん: 「コンプレックスを、自分でちょっとコントロールするという考え方も良いかもしれません。『私のここはこうだからダメだ』『私は美しくないんだ』と放り投げてしまうのではなく、あえて近づいて、受け入れがたいところも『自分を表現する上でのスパイス』だと考えると、結構楽しくなるような気がしています。私は、それを表現する上で下着を使っていますね」
上山さん: 「なるほど!少し別の視点からですが、以前ダンスの仲間に『こっちの色の下着の方が、あなたには似合いそうだよね』と言ったら、『でも、誰にも見せないから、私が好きな方でいいの』と言い切られて、ハッとしました。下着って誰からも見られない、自分のためだけに着るものだという考えも、自分の身体に対してポジティブだと感じました」
合田: 「ツルリンゴスターさんの漫画『彼女はNOの翼を持っている』には、日常に潜む様々な『NO』が描かれていますよね。例えば、生理の辛さを『生理ごとき』と自分自身で言ってしまう場面」
ツルリンゴスターさん: 「『生理ごときで、相手との予定を断れない』って思っちゃうんですよね。でも主人公のつばさは『だってみっちょんは「買い物に行くのが嫌だ」ってだけで、「私のことが嫌だ」って言ってるんじゃないじゃん』と言う。行けない理由と、相手への気持ちは別、という当たり前のことが、わからなくなってしまうときもある。『あの人、私のことがそんなに大事じゃないのかな』と思ってしまうのではなく、一旦立ち止まって、ちゃんと言葉にする大切さを描きました」
合田: 「適切なバウンダリーを引くことに繋がりますね。他にも、男子のホモソーシャルなノリや、性的なことをタブー視する大人の姿もリアルでした。先生が『性行為をする可能性が子どもたちにあるなら、彼らを守る正しい方法を伝えるのが大人の役目だと思います』と語る姿は印象的です」
ツルリンゴスターさん: 「子どもが中学生になってから、私も少しずつ心や身体、ジェンダーなどについて話をするようになってきて。『今どういうことを、どれくらい知ってる?』と聞きながら、大人の方が扉を開けておく必要があるな、と。『彼女はNOの翼を持っている』は、高校生の男子のホモソーシャルやそのつらさなどついても描いているからか、男性の読者も結構いらっしゃるんですよ」
合田: 「男性キャラクターといえば、つばさのお父さんの言葉も本当に胸に響きました。『俺たち大人が作ってしまった「こうじゃないと」に何度も邪魔されることがあると思う。そんなとき自分が何を選びたいかがわかってると、絶対に自分が進みたいところに行くための力になるんだ』。これは、私たち大人にも向けられた言葉ですよね」
ツルリンゴスターさん: 「『これを知ってたら、若いときに、本当に進みたいところに行けたかもしれない』という声を沢山いただいたセリフでしたね。社会からの押し付けや、一人ひとりの人権が守られる大切さについては、考え方が変わっていく歴史の途中にあります。こうした『ジェンダーに関するモヤモヤ』などを、まだ感じたことがない人にも、伝わることがあるといいなと思って、漫画にしています」
ツルリンゴスターさん プロフィール
イラストレーター/漫画家。著書に『いってらっしゃいのその後で』『君の心に火がついて』『ランジェリー・ブルース』(KADOKAWA)『彼女はNOの翼を持っている』(双葉社)があり、書籍のカバーイラストや挿絵なども手掛ける。関西在住で3人の子どもと夫、とかげと暮らす。