「バイセクシュアル=同時に男女と付き合う?」という誤解について考える

9月15日から23日は バイセクシュアル啓発週間(Bi+ Awareness Week) です。
近年「バイセクシュアル」という言葉自体の認知度は高まってきましたが、その一方で偏見や誤解が根強く残っているのも現実です。
たとえば当事者がカミングアウトをすると、
「男女両方と同時に付き合いたいってこと?」
という疑問を投げかけられることがあります。
今回は、よくある誤解のひとつである「バイセクシュアル=複数人との交際」というイメージについて、混同されやすい「ポリアモリー」との違いを整理しながら考えてみたいと思います。
そもそもバイセクシュアルってなに?
バイセクシュアルとは、2つ以上の性のあり方に惹かれを経験するアイデンティティのことです。
バイセクシュアルのバイ(Bi)とは、ラテン語由来の「2つの」という意味を持つ接頭辞で、ここでは「男性と女性の両方に恋愛感情や性的惹かれを感じる可能性がある」という意味につながっています。
そのため、これまでは「男女両方が恋愛・性愛の対象になる人」という説明が一般的でしたが、近年はかならずしも「男女」に限らない上記の定義が広く使われるようになっています。
よくある誤解がもたらす悪影響
まだまだ異性愛が当たり前とされがちな日本社会において、セクシュアルマイノリティはさまざまな場面で「いないもの」と扱われてしまうことが多い現状があります。
そのなかでもバイセクシュアルは、公共的・文化的な領域や社会生活、さらにはプライベートな関係においてまで存在を「いないもの」とされることがあり、こうした現象は「バイセクシュアルの抹消(不可視化)」と呼ばれています。
そしてこのバイセクシュアルの抹消を支えているのは、次のような言動だとされています。
- クラス的抹消(class erasure):バイセクシュアルを正当なアイデンティティのカテゴリーとして認めないこと(例)「本当は同性愛者/異性愛者でしょう」「目立ちたいだけだ」など
- 個別的抹消(individual erasure):カテゴリーとしては認めつつも、個人がバイセクシュアルを名乗ることを否定すること(例)「混乱しているだけ」「一過性のもの」「フェーズにすぎない」など
- 無効化(delegitimation):カテゴリーとしては認めつつも、スティグマ化によって「信用ならない」と印象づけること
なかでも3つ目の「無効化」は、バイセクシュアルの存在を認めているように見えながら、アイデンティティに対しての信頼を損なわせることで、結果的にカミングアウトを難しくさせ、不可視化を強めるという点が特徴です。
近年、映画やドラマなどにLGBTQ+のキャラクターが登場する機会は増えてきましたが、ステレオタイプ的な描かれ方をすることも多く、バイセクシュアルに対する誤解は今なお根強く残っています。
たとえば冒頭で触れたような「複数人と同時に付き合う」というイメージ。
このような誤った決めつけは「バイセクシュアル=1対1の関係にコミットできない」「性的に『乱れていて』信頼できない」というレッテル貼りにつながり、結果として当事者のカミングアウトを難しくさせる「無効化」につながります。
しかし、ここであらためて確認すると、バイセクシュアルとは複数の性のあり方を持つ人に惹かれる可能性のある性的指向を指す言葉。これは「同時に複数の人と付き合う」こととは異なります。恋愛や交際のスタイルは人それぞれで、バイセクシュアルの人でも一対一の関係を選ぶ人もいれば、そうでない人もいるのです。
ポリアモリーってなに?
そもそも、「バイセクシュアル=複数人と同時に交際したい人だ」という偏見がバイセクシュアルの抹消につながる背景には、複数人と同時に関係を築くことをネガティブなものとして捉える前提があるようです。
けれども、もしそれが当事者間の合意のもとに築かれた関係であれば、「良いもの」かどうかを他の人が判断するべきではありませんよね。
バイセクシュアルと混同されることの多い「合意のうえで複数のパートナーと同時に交際する形式」はポリアモリー(polyamory)と呼ばれています。
反対に、1人の相手と関係を結ぶあり方は「モノガミー(単数婚)」や「モノアモリー」と呼ばれます。
ポリアモリーを実践する人(ポリアモラスな人)は、別の人とも関係を持つ、あるいは持ちたいという気持ちについて、パートナーと率直に話し合い、相手の同意を得た上で関係を築きます。
前章でも触れたように、性的指向と交際のスタイルは別のものですから「バイセクシュアル=複数人と同時に交際したい人だ」という見方は誤りです。ポリアモラスな人の中には、異性愛者、同性愛者、バイセクシュアルだけでなく、さまざまなセクシュアリティの人含まれます。
そしてもう1つ重要なのは、こうした混同が「ポリアモリー=良くないものだ」という前提を強めてしまう危うさです。特定のあり方を一方的に否定してしまっていないか。そんな視点であらためて立ち止まり、考えてみる必要があるかもしれません。
さいごに
バイセクシュアルの人はしばしば、
「性に奔放」
「一人の相手じゃ満足できない」
といったイメージを持たれてきました。
しかしここまで見てきたように、バイセクシュアル=ポリアモリーではありませんし、特定のセクシュアリティが恋愛スタイルや価値観を決めるわけでもありません。
また、そもそも「性について積極的であること」や「合意のもとで複数の人と関係を築くこと」などの行為は、誰かから否定されるべきものではないはずです。
「自分の経験」や「耳にしたイメージ」だけで、つい相手のあり方を決めつけてしまった。
そんな経験がある人も少なくないのではないでしょうか。
それぞれが望む関係性を安心して選ぶことができ、その選択が尊重される社会のために、日々の小さな「無意識の決めつけ」に気づいていけるといいですね。
参考
・Kenji Yoshino, 2000 “The Epistemic Contract of Bisexual Erasure,” Stanford Law Review, 52(2): 353-461.
・https://feeld.co/glossary/polyamorous-polyamory