60歳で英語の勉強を始めた祖母の話。ラジオで英会話を勉強している祖母と小学生くらいの主人公(女性)のイラスト。
家父長制が色濃い時代に生まれ、好きだった英語を学ぶという夢を諦めざるをえなかった祖母。彼女がようやく英語を学び始めることができたのは、60歳になってからでした。いまだに残り続ける家父長制。それでも少しずつ変わってきている時代の空気と、過去に社会を変えようと声を上げ続けた人たちに思いをはせるエピソードです。
私の祖母は、1930年代に、3人姉弟の次女として産まれた。曽祖父「また女の子か…」と残念そうな顔。曾祖母「この子の名前はどうしましょう?」「今日は梅がきれい咲いているから、『梅子』でいいんじゃないか」今よりも家父長制が強かった時代。次女だった祖母は、長女や弟が産まれたときより歓迎されていなかった
中学生くらいの祖母「お姉ちゃ〜ん、英和辞典貸して〜」姉「今使ってるからダメ!」祖母「ねぇねぇ、辞書貸して〜」弟「なんでお姉ちゃんに貸さなきゃいけないの?」祖母、心のなかで「明日、私も試験なのに…」英語の勉強が大好きだった祖母。でも、次女だった彼女は英和辞典を買ってもらえなかった。
祖母は、英語に対して「もっと勉強したかったのに」という思いと苦手意識を抱えたまま、大人になった。仕事、子育て、介護と、苦労を重ね…。ようやく自分の時間を持てるようになった祖母は、60歳になっていた。小学生の主人公(女性)のA「おばあちゃん、ただいま〜」祖母「おかえり〜」「WOULD YOU LIKE SOMETHING TO DRINK?」という英語の文章がラジオから聞こえてくる。
A「おばあちゃん、またCD聴いてるの?」祖母「そうだよ〜Aちゃんも一緒にする?」A「え〜つまんない。友だちと遊んでくる!」祖母「アハハ」10年後、祖母と母とヨーロッパに旅行したとき…。母「忘れ物ない〜?」Aと母、ホテルから出発しようとバタバタしている。そんな中、祖母がフロントに移動して英語で話している。祖母「Good morning. Check out please.」フロント「Sure, May I have your room keys please?」A「え!おばあちゃんチェックアウトしてくれたの!?」祖母「うん!」と自信満々。
60歳で英会話の勉強を始めた祖母は、いつのまにか、日常英会話ならお手の物になっていたのだ。家父長制のせいで、自分の好きなことができなかった女性たちがたくさんいた時代…。その時代に比べれば、今は性別に関わらず、勉強したいことを勉強できる時代になりつつある。それは、時代に負けず、声を上げ、社会を変えてきた女性たちがいたからだ。声を上げているいろんな国の女性たちのイラスト。
でも、私たちが生きている時代にも、まだまだ課題は残っている。「高学歴すぎるとモテない」「女の子は地元ので短大でいいんじゃない?」「女性には理系は無理」「医大入試で女子受験生が一律減点」などなど。いくつになっても勉強と努力を続ける姿を見せてくれた祖母…。そんな彼女に敬意を払い、私も今からたくさん勉強していきたい。フェミニズムの本を読んでいるA「次の世代の女の子たちが、自分の勉強したいことを思いっきり勉強できる時代を作っていくぞ…!」おわり。

【マンガで解説】女性から学びの機会を奪ってきた「家父長制」とその影響

60歳で英語の勉強を始めた祖母の話

かつて女性は「女性である」という理由で、学びたくても学べない時代がありました。

今回は、今よりももっと家父長制が強く、女性の選択肢が奪われていた時代に育った祖母を持つ方の体験談をマンガでご紹介しました。

体験談を読んでみて、皆さんは「昔と今は違うな」と感じたでしょうか?

たしかに、時代の変化とともに女性が学びたいことを学べる環境は昔に比べると整ってきたことも事実です。しかし、現在においてもまだまだ性別を理由として学ぶことをあきらめざるを得ない女性たちがたくさんいます。

2018年、医学部受験において不正な得点操作が行われてきたことが大きなニュースになりました。本来であれば合格ラインに達していた受験生が「女性である」という理由により医療を学ぶ機会から疎外されてしまったのです。

また女性を学びから阻害する要因は、こうした組織的な差別のほかにも、生活の隅々に女性の学ぶ権利を奪う要素はたくさんあります。今回はパレットークに寄せられた声も交えながら、女性と学ぶ機会について考えていきたいと思います。

そもそも家父長制とは?

家父長制とは、年長の男性に支配権が集中する制度のことです。父親が、妻や子どもに関するさまざまな決定権を所有し、その地位は男子に継承されていきます。

日本でも、明治時代に家族のあり方に関する民法が制定され、

  • 戸主は家の中の最年長の男性であり、家族はその命令に従わなければいけない
  • 家の財産は、原則的に戸主の長男が継ぐ
  • 結婚は、戸主の許可がないとできない
  • 妻は夫の許可がないと働くことができない

などの決まりがありました。

こうした日本の家制度は第二次世界大戦後の1947年に、日本国憲法の誕生にともなって廃止されることになります。

しかし明治民法が改正されたからといって、制度や風習のなかに残る男性中心的な考えがなくなったわけではありません。現在の日本でも、社会のいたるところに家父長制的な(=男性中心主義的な)制度や風習が残っています。

読み込み中...

制度だけじゃない、女性から学びを奪う様々な価値観

女性と男性という性別二元論の強い社会では、この「男女」の枠組みに様々な二項対立が男女の差として当てはめられる場面も多くあります。

  • 男性は強く逞しい/女性は優しい
  • 男性は理性的/女性は感情的

男性脳/女性脳という疑似科学を目にすることもしばしばありますが、冒頭で紹介した医学部受験の不正も、こうした価値観の延長上にあります。

文部科学省の学校基本調査によると、2023年度の大学進学率は男子が60.7%、女子が54.5%と、過去最高の水準に達したそうです。1960年の大学進学率が男子13.7%、女子2.5%だったことから比べると、全体的な進学率も男女の差も縮まってきていることがわかります。

しかし、その進学の個別的な状況を見ていくとまだまだ多くの差が残されていることもわかります。2023年の国際女性デーの頃に、今回のマンガをInstagramで公開した際にも、読者の方々から多くの反響とコメントが寄せられました。

「なんだかんだ言って、常に兄が優先されていて、妹の私は大学に行けなかった」

「大学に落ちて、浪人したいと思っていると親戚に話すと、浪人はダメ、貰い手がいなくなると言われた」

「行きたい大学があったけれど、『女の子だから地元の大学にしておけ』と言われた」

それぞれの家庭において異なる経済状況や教育に関する方針があるとしても、性別による区別(=差別)が今も根強く残っていることがわかります。

また、

「勉強や将来つきたい仕事のことを『女の子ががんばっても無駄よ』と親に言われた」

中学時代に母に『東大に言ったら結婚できない』と言われて、無意識に勉強を抑えていたな」

など、そもそも勉強に対する意欲や動機を損なわせる声掛けをされたという体験談もありました。こうした1つひとつの体験談からは、今回のマンガのエピソードが決して過去のものではないことがわかります。

性別に関わらず「学びたい」が尊重される社会へ

現代社会は、以前と比べれば性別に関わらず学ぶことができ、自分の進みたい道を選べる社会へと、少しずつですが変化しつつありますが、それでもまだまだ誰もが学びたいことを学べる社会からは程遠い現実があることも事実です。

組織的・制度的な女性差別だけでなく、私たちの価値観のなかに潜む無意識の差別意識についても見つめなおすことで、性別によって学ぶ機会がうばわれない社会につなげていくことはできないのではないでしょうか。

今よりももっと家父長制が根強い時代に生まれ育ちながらも、学ぶことをあきらめなかった1人の女性の体験談から勇気をもらうと同時に、今も残る問題からも目をそむけることなく考えていく必要があるのだと思います。

読み込み中...
読み込み中...