女性だけのセクハラ研修を受けた話。ロングヘアの女性が研修をうけている後ろ姿、研修担当の黒髪ショートヘアの女性が壇上で話しているイラスト。
新卒として入社した会社で「女性だけを対象にしたセクハラ研修」を受けることになった主人公。「波風を立てずに対応することが大切」「怒ったり泣いたりするのはNG」という内容に、衝撃を受けます。それから10年が経ち、彼女はあらためて自身の新卒時代や、上の世代の女性たちが入社した頃の状況に思いをはせます。今なお解決すべき課題は多いものの、確実に変化は起きている。そう感じさせられるエピソードです。
これは10年前、私が新卒としてとある会社で働き出したとき…。主人公「よろしくお願いします!」男性社員たち「よろしく〜」主人公「今日は午後から研修か〜。場所は...3研ね」
研修室に集まる主人公、周りにはいろんな女性がいる。ガヤガヤ。主人公は「女性社員ばかりだ…」と思う。壇上にいる研修担当の女性上司、黒髪ショートヘア。「みなさん、研修にご参加いただきありがとうございます」
研修担当「今日の内容は...セクハラについてです」プロジェクターには「社内のセクハラにどう対応するか?」という文字。主人公「女性だけで セクハラ研修…?」と疑問に感じる。研修担当「では始めま〜す」
研修担当「『セクハラ』って最近耳にすることも多いと思うんですが、もし上司からこんなこと言われたら、皆さんどうしますか?」プロジェクターに「最近太ったんじゃない?」「まだ結婚しないの?売れ残っちゃうよ〜」という文字。ざわざわする会場。主人公「ん〜なんだろ…相談窓口があるのかな…?」
研修担当「こういう発言には…なにより波風立てずに対応することが大切です!」ドーンッ!とプロジェクターに「波風立てずに対応する」の文字。それを見た主人公、「ええっ!?」とショックを受ける。
研修担当「怒ったり、泣いたりするのはNGですね。『これだから女性は感情的で〜』と言われてしまいます。さらっと流したり、明るく対応したり、スマートな対応を心がけましょう」それを聞いている主人公、開いた口が塞がらない。研修担当「じゃあちょっとロールプレイしてみましょうか」プロジェクター画面文字「男性上司にしつこくレストランに誘われた場合」それを見た主人公「ひ、ひえええええ〜…」と意識が遠くなりながらフェードアウト。
主人公モノローグ「私が入社する前年から、ようやく女性の総合職を積極的に取り始めたこの会社。そうは言っても、当時は女性の管理職なんて、1人もいなかったし、女性社員が増えてきたとはいえ、まだまだ男性ばかりだった」会社の蓋を開けてみると男性だらけな状態に「あれ!?」と驚く主人公。
主人公モノローグ「それから10年が経った今...もうあの女性だけの セクハラ研修は行われていない。ハラスメント対応も少しずつ変わってきている」研修室の前を通りかかった主人公、ちらっと中を覗いてみる。研修担当の男性「こういう発言は、たとえ褒めているつもりでも、ハラスメントに該当します」
男性社員たちが研修を受けている様子。ひとりの年配の男性社員「え〜これもセクハラ?だったらなにも言えなくなっちゃうよ〜」研修担当「いえ、ハラスメントせずに会話をすることは可能ですよ」主人公「まだまだ、変えていかなきゃだな…」と困り顔。
10年前、研修をしたくれた女性上司と廊下ですれ違う主人公。「お疲れ様です」「お疲れ様〜」と笑顔で挨拶をする。
歩いていく女性上司を振り返って考える主人公「先輩たちが新入社員だった頃は、どんな状況だったんだろう…」主人公モノローグ「あの研修で指導された『波風立てずにスマートに』『うまくあしらえるのも力量のうち』などの考え方は、被害について声を上げた人の口を塞ぎ、解決するべき問題を温存させてしまうものだと思う」
主人公モノローグ「そんな内容の研修を会社主導で行っていたという事実に、あらためて鳥肌が立つ。今の私なら、『それは絶対に間違っている』とはっきり言えるけど…」そういった発信に「NO」と返して首を振っている主人公。主人公モノローグ「上の世代の女性たちが働き始めた頃は、いわゆる『上手な対応』ができなければ、生き残れなかったのかもしれない」
主人公モノローグ「そんな時代から時は流れ、私が新卒だった頃、そして今。たしかに少しずつ空気も変わってはきている。でも…」主人公「まだまだ変えていかなきゃいけないことだらけかも」「新卒採用開始に向けた広報戦略」と書かれた書類を手に持っている主人公。
主人公「あなたが会社の空気で『変わったな』と感じること、『変えていきたい』と感じることもコメントで教えてね!」とこちらに向かって話しかけているイラスト。おわり。

【マンガで解説】職場でのセクハラをなくすために知っておきたい基礎知識

女性だけでセクハラ研修を受けた話

【この記事には、性暴力や二次加害に関する言及・表現があります。フラッシュバックなどの心配がある方は、ご自身の状態に注意してお読みください。】

男女雇用機会均等法が改正され、事業者にセクシュアルハラスメント(セクハラ)防止の取り組みが義務付けられてから、もうすぐ18年になります。

「セクハラは止めるべきもの」という考え方は、社会の中で当たり前になりつつありますが、その一方で、

「被害者にも落ち度がある」
「受け流せばいい」

といった考え方はいまも根強く残っています。

そのため「うちではそういう話は聞かない」と思われている職場でも、実際には社員が声を上げられず、被害が見過ごされていることも少なくありません。

今回の記事では、新卒入社時に女性社員だけを集めた研修で「セクハラは波風を立てずに受け流すべきだ」と指導された体験マンガを紹介しながら、セクハラの意味という基本的な部分や、その後に起こり得る二次被害についても考えてみたいと思います。

そもそもセクハラって?

セクハラとは、「セクシュアルハラスメント(sexual harassment)」の略で、相手を不快にさせたり、動揺させたり、場合によっては恐怖心や屈辱感を与えてしまうような性的な言動のことをいいます。

本来「セクハラ」という言葉は、相手の同意のない性的なコミュニケーション全般を指します。

ただし、日本の法律上では「職場におけるセクハラ」に絞って、次の2つのタイプに分類して考えられています。

① 対価型セクハラ
性的な言動に応じるかどうかによって、人事評価や雇用条件に不利益・利益が生じるケース。
(例:事業主から性的関係を要求されたが拒否したため解雇された)

② 環境型セクハラ
性的な言動によって就業環境が悪化し、働く能力や意欲に重大な悪影響が生じるケース。
(例:同じ空間に性的な内容の会話を頻繁にしている同僚がいるため、苦痛に感じ、心が休まらない。)

これらの例からわかるように、セクハラとは性別や立場に関係なく、どこでも、誰にでも起こりうる暴力なのです。

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悪意がなくても被害者を傷つける「ヴィクティム・ブレイミング」

マンガの主人公が10年前に受けたセクハラ研修では、女性社員だけを集め、次のような指導が行われました。

  • 「波風立てずにスマートに受け流すことが大切」
  • 「怒ったり泣いたりするのはNG」

これは被害の深刻さを軽視し、「対応できないのは被害者の責任だ」とする考えを植えつけるものです。こうした態度は、ヴィクティム・ブレイミング(Victim-Blaming/被害者非難) を助長する典型的な例と言えます。

ヴィクティム・ブレイミング(Victim-Blaming、被害者非難)とは、性暴力の被害にあった人に対し、その責任が被害者にあるかのような発言や、被害体験自体を信じない/矮小化する発言を指す言葉のこと。

日本語圏では「セカンドレイプ」という名前で呼ばれることが多いですが、レイプ被害に限らず、痴漢・盗撮・セクハラなどあらゆる性被害の後に起こりうるものです。

具体的には次のような発言がヴィクティム・ブレイミングにあたります。

【ヴィクティム・ブレイミングにあたる発言の例】

  • 被害者に責任を負わせる
    「なんでもっと強くNOと言わなかったの?」
    「あなたが魅力的だからだよ」
  • 被害体験を信じない
    「あんな立派な人がそんなことをするわけないよ」
    「あなたみたいな人が被害にあうわけがないよ」
  • 被害体験を矮小化する
    「気にしすぎだよ」
    「(男性の被害者に対して)むしろラッキーだったじゃん!」

こうした言葉は、すでに暴力によって傷ついている被害者をさらに追い詰める原因になります。特に性的な被害では、被害者は最初の段階で恥や罪悪感を抱きやすく、そこにヴィクティム・ブレイミングが加わることで、二重の苦痛を受けることになるのです。

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セクハラ防止は企業の義務

主人公が研修で大きなショックを受けてから、10年が経った今。#MeTooをはじめとする社会の動きや法制度の整備が進み、少しずつ状況は変わってきています。

最近では「被害者にならないための護身術」を教えるのではなく、「加害者にならないためにはどうすべきか」 に重点を置いた研修や、自分自身も知らないうちに加害者になってしまう可能性を気づかせる取り組みも増えてきました。

マンガの中で描かれていたように、かつては「上手に受け流せなければ、男性中心の企業社会で生き残れない」という時代背景があったのも事実です。

しかし、時代とともに社会や職場のあり方は確かに変わりつつあります。

男女雇用機会均等法第11条では、すべての事業主に対して「職場におけるセクシュアルハラスメント防止措置」を講じる義務が定められています。

厚生労働省の指針によると、事業主が講じるべき具体的な措置は次の通り。

  • 方針の明確化とその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応できる体制の整備
  • 事後の迅速かつ適切な対応
  • 当事者のプライバシー保護
  • 相談や協力を理由に不利益な扱いをしないこと

つまり企業は、被害が起こらないように予防する仕組みを整えることと、万が一起こってしまったときに適切に対応することの両面で責任を負っているのです。

また、セクハラの加害者は上司や同僚、部下だけに限りません。取引先や顧客など、社外の関係者が加害者になる場合もあるため、企業は「職場」を狭く解釈せず、広く想定して対策を講じる必要があります。

セクハラ防止の仕組みをつくることは、一度の施策で完成するものではありません。だからこそ、少しずつでも取り組みを進め、着実に改善を積み重ねていくことが大切です。

さいごに

今回の記事では、セクハラ研修に関する体験マンガを紹介しながら、セクハラの意味や、その後に起こり得る二次加害、そして企業の責任について考えてきました。

マンガに描かれていたように、かつては「波風を立てないこと」がよしとされ、被害を口にすること自体がタブーとされていました。しかし、それは被害者にさらなる負担を強いるとともに、加害行為を見過ごす構造を生み出す側面もありました。

職場でセクハラを防ぐには、個人の努力だけではなく、企業が制度や教育、相談体制を整えることが欠かせません。

すべての働く人が安心して働ける職場をつくるために、できることから始めてみませんか?

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