ストーンウォールのサイトから削除された「トランスジェンダー」と「クィア」。だれも取り残さないプライドのために考えたいこと

6月はプライド月間です。
1969年、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で警察が行った不当な踏み込み捜査に対する抵抗から始まった「ストーンウォールの蜂起」。
これを記念して、毎年6月には世界中でLGBTQ+コミュニティの権利啓発やコミュニティを祝福するイベントなどが行われています。
日頃からLGBTQ+に関するトピックを発信しているパレットークですが、今年のプライド月間には「The future is queer “ストレート”じゃない未来をあなたと想像するために」というテーマのもと様々なコンテンツを発信しています。
今回の記事では、ストーンウォール国立記念碑のウェブサイトから「トランスジェンダー」や「クィア」の表記が削除された事件から出発し、誰も取り残すことなく「ハッピープライド」と言える社会にするために何が必要なのかについて、考えていきたいと思います。
ストーンウォールのウェブサイトから消された「トランスジェエンダー」と「クィア」
プライド月間のきっかけとなった「ストーンウォールの蜂起」は、1969年にニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で起きた、警察による弾圧に抗議した人々の抵抗運動です。
当時は「LGBTQ+」という分類がなく、多くの場合「ゲイ(gay)」とひとまとめに表現されていましたが、当時のコミュニティ内にも、抵抗運動の中にも、今で言うトランスジェンダーやクィアの人たちが確実に存在していました。
ところが最近、その歴史を伝えるためにオバマ政権時代に指定された「ストーンウォール国立記念碑(Stonewall National Monument)」の公式サイトから「トランスジェンダー」と「クィア」という言葉が削除されたことが報じられました。
削除に至った経緯は明らかにされていませんが、トランプ氏が大統領に就任後、たてつづけにトランスジェンダーの人々の権利を侵害するような大統領令に署名していることが影響していると考えられています。
トランプ氏再選とバックラッシュ
アメリカでは、トランプ政権により反LGBTQ+ / 反対DEIの風潮が巻き起こっており、人々の生活に大きな影響を与えています。
「性別は男女の2つだけ」「子どもを “過激なジェンダー思想”から守る」といった言説が保守層を中心に拡散され、トランスジェンダー当事者の適切な医療・教育へのアクセスやスポーツへの参加に対する制限が相次いでいます。
そしてこうした動きは、国境を越えて日本社会にも影響を与えています。
日本でも反トランス的な主張やデマの広がりが見られる中、アメリカなどから言説が “輸入”されることで、トランスジェンダーの人々への偏見や差別が強まっています。
たとえば
- 「トランスジェンダー女性が女性の安全を脅かす」などの偏見に基づく主張
- ジェンダーやセクシュアリティを「思想」と結びつけ、陰謀論的に語る論調
- 「少数者に対する配慮が “行きすぎている”」という誤解
これらは海外のアカウントの発信を翻訳・引用する形で拡散されることも多く、国際的なバックラッシュだとも言われています。
このようなトランスジェンダーの人々への排除は残念ながらこれまでも存在してきましたが、今回のトランプ氏の再選を機に、より一層勢いを増しています。
こうした差別的な言説の広がり、そして国家がそれを容認するどころかむしろ後押しするような動きは、当事者の尊厳を深く傷つけ、実際に命を奪うような深刻な事態を各地で引き起こしています。
トランス排除言説の矛盾
女性として生活する人々の中にはトランスジェンダーの女性も当然含まれます。しかし、そのことを忘れて「女性を守る」という名目でトランスジェンダー女性を排除する風潮が広がり、結果としてシスジェンダー*の女性が排除されるといった事件も起きています。
たとえば今年(2025年)5月3日にはアメリカのリバティホテルで、シスジェンダーの女性が「男性である」と決めつけられ、女性用トイレから追い出されてしまうという事件が起きました。
その女性は通報を受けた警備員からID(身分証)の提示を求められ、その後ホテルからパートナーとともに締め出されてしまったといいます。
この事件からわかるのは、トランス排除の考えはトランスジェンダーの人々だけを標的とするのではないということです。
「 “女性らしくない”人は排除していい」という考え方が社会全体に浸透してしまうと、たとえ生まれたときに「女性」という性別を割り当てられた人であっても、 “女性らしい”とされる見た目やふるまいから逸れるだけで、危険にさらされてしまうおそれがあります。
たとえば、
- ショートヘアの人
- 骨格がしっかりしている人
- ボーイッシュな装いを好む人
などなど…
本来このような “女性らしさ” の強制とそれによる差別・排除は、フェミニズムが長年批判の対象としてきたもののはずです。
そもそも「女性を守る」という主張が前提としている「女性」からトランスジェンダー女性を除外する考え方は、多くのトランスジェンダー女性がすでに女性としてこの社会で暮らしているという現実を無視してしまっています。
また「(シスジェンダーの)女性を守る」という建前のもとで広がるトランス差別が結果的にシスジェンダーの女性の尊厳をも危うくしている事実は、トランス排除言説の矛盾を示しているのではないでしょうか。
*シスジェンダー:出生時に割り当てられた性別と自認する性別が一致している人
素朴な疑問を抱いたら
SNSで見かけた「今こんな事が起きているらしい」「こういう危険があるらしい」といった声に、モヤモヤしたり不安を抱いたりしている人も多いと思います。
でも、そうした不安が誰かを攻撃する方向へ向かわないように、正確な知識や、信頼できる当事者の声にふれることが大切です。
以下では、編集部おすすめの記事やサイトを紹介します。
ウェブサイト
🔗 はじめてのトランスジェンダー
ウェブ記事
📖 高井ゆと里「トランスジェンダー問題」は、シスジェンダー問題である」(じんぶん堂)
📖 Palettalk「【インタビュー】ICUジェンダー研究センターの先生に聞く「LGBTQ +とフェミニズムの関係って?」」
書籍
📚️ 『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら』高井 ゆと里/周司 あきら、青弓社
📚️ 『トランスジェンダー入門』周司 あきら/高井 ゆと里、集英社
誰かの人権が踏みにじられている現実を知りながら、心からハッピープライドとは言えません。
誰も取り残すことなく「ハッピープライド!」と祝福し合える社会にするために。このプライド月間を機に、みなさんも一緒に学んでいきませんか?