選択的夫婦別姓に反対する理由ってなに?
選択的夫婦別姓制度とは、別姓にしたいカップルは別姓を選ぶことができ、同姓にしたいカップルは今まで通り同姓を名乗ることができるようにする制度のこと。
日本では現在、国際結婚の場合を除き、すべての夫婦が同じ姓を名乗らなければいけないこととされています。過去にも選択的夫婦別姓の実現を求めて数多くの訴訟が行われてきましたが、今年3月にも新たに都内などに住む12人が国に賠償などを求める訴えを起こしました。
選択的夫婦別姓が法制化されれば、より多くの人が、自らの望む形で家族として生きることができます。
しかしこの制度が議論に上がるたび、「家族の一体感が失われる」「伝統的な日本の家族のあり方が失われる」などという理由から、夫婦同姓の強制は維持されてきました。
今回の記事では、選択的夫婦別姓を取り巻くこのような反対意見について、あらためて考えていきたいと思います。
選択的夫婦別姓って?
選択的夫婦別姓制度とは、冒頭でも述べたとおり、希望する夫婦に対し、結婚前の姓を名乗ることを認める制度です。
夫婦が同じ姓を名乗ることは「当たり前」として受け入れられているイメージがありますが、すべての夫婦に対して同じ姓を名乗ることを義務づけている国は、なんと世界で日本だけ。
加えて日本ではほとんどの夫婦が夫の姓を名乗っており、その割合は全体の95.5%にのぼるといいます(2019年厚生労働省人口動態調査)。
国連の女性差別撤廃委員会はこのような状況を踏まえ、日本の民法における夫婦同姓規定が「差別的規定」であるとして、見直しを求める勧告を過去に3回も出しました。
しかし、選択的夫婦別姓制度が法制化されることはないまま今日に至ります。
選択的夫婦別姓制度が議論に上がるたびに、「伝統的な家族のあり方を守るべきだ」「家族の一体感が失われる」「日本社会が変わってしまう」といった反対意見が、制度の導入を妨げてきたのです。
そこで以下では、このような反対意見について、あらためて考えてみようと思います。
反対意見① “伝統” は守るべき?
選択的夫婦別姓制度に反対する理由としてよく聞かれるのが「 “伝統的”な家族のあり方を守るべきだ」「別姓を許せば日本 “古来” の家族のあり方が失われる」というような、「昔から続く夫婦同姓の伝統を守るべき」とする意見です。
しかし、夫婦が同姓を名乗ることははたして本当に「伝統」なのでしょうか?
法務省によれば、夫婦同姓の義務付けは1898(明治31)年の旧民法成立による家制度の導入に伴って始まったものであり、それまでは夫婦別姓がむしろ「当たり前」とされていたことがわかっています。
夫婦同姓は昔からの伝統ではなく、比較的最近始まった制度だったのです。
またそもそも「大昔から続いている」という事実は、特定の制度をそのまま維持する根拠にはなり得ません。
夫婦別姓や婚姻の平等(同性婚)への反対意見として「伝統」や「古来」のような言葉をよく耳にします。しかしこれらは、制度を見直すために欠かせない議論を省略し、「長く続いているものを絶やすのは間違っている」として対立する意見を押し切るために多用されるので注意が必要です。
社会の変化とともに、私たちの生活や、私たちがどのように人と関係を結ぶかは変わり続けていくものです。常に変化し続ける人と人との関係を保証するための法律を、「昔からこうだったから」という基準で扱うべきではないですよね。
去年、明治時代以降変えられることがなかった性交同意年齢がついに引き上げられました。このように、法とはその時代で共有されている価値観や生活のあり方に沿って、常に見直しが必要とされるものなのではないでしょうか。
反対意見② 姓が違うと “家族の一体感” がなくなる?
さらに選択的夫婦別姓制度に反対する理由としてよく挙げられる意見のひとつが、「夫婦別姓を許せば家族の一体感がなくなる」というものです。
夫婦別姓が法律上可能になれば、日本の夫婦の絆はたちまち弱まり、家庭が崩壊し、子どもの成長に悪影響が出るというのですが、本当にそうでしょうか?
仮に別々の姓を名乗ることが家族の仲に亀裂を生じさせるのだとしたら、日本のすべての既婚者の2分の1、つまり結婚時に改姓した人たちが「改姓を機に実家と不仲になっている」ということになってしまいます。
さらに、「親と姓が違うことで疎外される子どもが出てくるかもしれない」といった懸念から、「夫婦別姓は子の福祉によくない」とする意見も聞かれます。しかし、そもそも「姓が違うと仲間はずれにされる」「疎外感を感じる」という不安の背景にある、姓が違うことに対する偏見やスティグマ(良くない意味)の押し付けにまず対処すべきでしょう。
夫婦別姓を認め、夫婦や親子の姓が違うことが法律上当たり前になることは、むしろそのような偏見をなくしていく第一歩になるはずです。
もちろん「選択的」夫婦別姓ですから、すべての夫婦が別々の姓にしなければいけなくなるというわけではありません。
「別姓を名乗ることで家族の一体感が損なわれる」と考えるカップルは、引き続き同姓を名乗ることができるのです。
ただし、DVの相談件数が年々最多数を更新していることなどを考えると、一体感や絆を重んじる意見の根本にある「夫婦は一度結婚したら一生一緒にいるべき」「家族は運命共同体」という考え方自体も妥当性が問われていくべきなのかもしれません。
反対意見③ 社会が “変わってしまう”?
さらなる選択的夫婦別姓への反対意見として「日本の家族が壊れる」「日本が変わってしまう」というように、制度の導入をきっかけに訪れる社会の変化を危ぶむようなものもよく耳にします。
「(同性婚や夫婦別姓を認めると)家族観や価値観、社会が変わってしまう」という岸田首相の発言は、記憶に新しいですよね。
これらの言葉には「既存の法律によって定められている家族や人生の型があって、それに合わせて人は生きていくべき」というような考え方がにじんでいます。
しかし先にも述べた通り、家族観や価値観は常に変化しているものです。また、私たちは何十年も前に作られた制度を機能させ続けるために生まれてくるのではないはずです。
長年見直されていない保障の枠組みからこぼれ落ちてきた人々の声を聞き、必要な形へと法律を整え、今の状態を「当たり前」とする人たちの意識を変えるためにこそ、政治があるのではないでしょうか。
札幌市では、パートナーシップ制度について「少子化が進むのではないか」「家族制度が崩れるんじゃないか」といった否定的な意見が多数寄せられたことを受けて「市民の十分な理解がまだ得られておらず、時期尚早だ」と判断するのではなく、「そのような偏見を持たれているからこそ制度が必要だ」と認識し、導入までこぎつけたそうです。
「社会が “変わってしまう”」と現状に甘んじるのではなく、社会で既に起きている変化と向き合い、より多くの人に開かれた社会へと “変える” ために新たな制度を設ける姿勢は、一人ひとりが生きづらさを感じない世の中を作るために、これからも必要とされるものだと思います。
最後に
本記事では、あえて夫婦別姓に対する反対意見を取り上げ、それに反論する形で選択的夫婦別姓制度の必要性について考えてみました。
「伝統」や「家庭の崩壊」などの言葉で見せかけの説得力を持たせ、「昔はよかった」という共感を誘っても、実際には「具体的な根拠に基づいているわけではない」ということが分かっていただけたのではないでしょうか。
東京弁護士会会長を務めていた矢吹公敏弁護士の声明(2021年06月17日発出)によれば、夫婦同姓を強制する現行の民法第750条は、別姓を希望する人に対して改姓を余儀なくさせるという点で人格権の侵害(=憲法13条違反)にあたるだけでなく、別姓を名乗りたいという信条をもつ人々から法律婚による保障を受ける機会を奪っており、「信条による差別」(=憲法14条違反)に該当するといいます。
このような状態を一刻も早く脱するために、選択的夫婦別姓制度が導入されることを望みます。
(文章:𠮷元咲)