バイセクシュアルって何?よくある誤解と偏見

LGBTQ+について耳にする機会は増えてきたものの、それぞれのセクシュアリティについてきちんと知る機会は、まだまだ多くないのではないでしょうか。
たとえばLGBTQ+のBにあたるバイセクシュアルについて、「バイセクシュアルってこういう人のことかな」となんとなくわかったつもりでいても、メディアなどで描かれる画一的なイメージをそのまま信じてしまっていることもあるかもしれません。
この記事では、あらためて「バイセクシュアルとは何か?」という基本的な説明から、よくある誤解や偏見まで、わかりやすく解説していきます。
バイセクシュアルとは?
バイセクシュアルとは、一般的に「男女両方が恋愛・性愛の対象になる人」として知られています。
バイセクシュアルのバイ(Bi)とは、ラテン語由来の「2つの」という意味を持つ接頭辞で、ここでは「男性と女性の両方に恋愛感情や性的惹かれを感じる可能性がある」という意味につながっています。
しかし近年では、かならずしも「男女」に限らず、「2つ以上の性のあり方に惹かれを経験するアイデンティティ」と説明されることも増えてきました。
従来の「バイセクシュアル=男性にも女性にも惹かれる」という説明は、性のあり方を男性/女性の2つに分けるバイナリー的(二元論的)な前提に基づいていました。しかし最近は、ノンバイナリー、ジェンダークィアなど、従来の男女二元論に収まらない多様な性のあり方が可視化され、認知されるようになっています。
このような背景もあって、バイセクシュアルの定義も「自分の性と同じ性にも、異なる性にも惹かれる」あるいは「2つ以上の性別に惹かれる可能性がある」といった、より包括的で多様性に配慮した表現へと変化してきたのです。
パンセクシュアルとの違いって?
バイセクシュアルに近い性のあり方として、パンセクシュアル(全性愛)という表現を目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
パンセクシュアルとは、相手の性のあり方に関係なく魅力を感じるセクシュアリティ(性的指向)のこと。
パンセクシュアルのパン(pan)はギリシャ語の pan-(すべて・あらゆる) が語源で、日本語では「全・氾(はん)」などの漢字をあてて訳されることの多い接頭辞です。つまり「性別や性自認に関係なく、すべての人(※)に惹かれる可能性がある」という意味につながります。
(※)ここでいう「すべて」には、「すべての人を必ず好きになる」という意味ではなく、「好きになる相手を性別で限定しない」というニュアンスがあることに注意が必要です。
「複数の性のあり方が惹かれる対象になる」という点で、パンセクシュアルは広義のバイセクシュアルに含められる場合もあり、お互いに重なり合う部分があると言われています。
このように、パンセクシュアルなどの多様な性のあり方を包括する広義のバイセクシュアルは、複数の細かい分類をまとめて包み込む「アンブレラターム(傘のように覆う用語)」のひとつです。
「好きになる相手の性のあり方が1つに限られない」という点で、パンセクシュアルとバイセクシュアルはたしかに似ていますが、誰かに魅力を感じるときに「性別が条件にならない」という感覚がある人は、もしかしたらパンセクシュアルに近いかもしれません。
バイセクシュアルに対する誤解・偏見
LGBTQ+のキャラクターが映画やドラマで描かれることも増えましたが、ステレオタイプ的な描写がまだまだ多いこともあり、バイセクシュアルに対しては依然として誤解や偏見が存在します。
この章では、バイセクシュアルに対するよくある誤解や偏見を紹介します。
男女と同時に付き合うってこと?/遊び人・浮気しそう
「バイセクシュアル」は、複数の性のあり方に惹かれる可能性があるという性的指向を指す言葉であって、同時に複数の人と付き合うことを意味しません。
そもそも、1対1の関係(モノガミー/モノアモリー)を望むか、合意のもとで複数人との関係(ポリガミー/ポリアモリー)を望むかは、人によって異なります。これは異性愛者でも同性愛者でも同じで、恋愛や交際のスタイルは性的指向とは直接関係がありません。
つまり、バイセクシュアルだからといって、男女両方と同時に交際するというわけではなく、「バイセクシュアル=遊び人・浮気しそう」というのは根拠のない誤解です。
男女両方と交際経験がないならバイセクシュアルとは言えない
性的指向は「どのような人に惹かれるか」という内面的な感覚を表すものであり、実際にその人が
・どんな性のあり方の相手と交際したことがあるか
・どんな性のあり方の相手と性的な関係を持ったことがあるか
などによって決まるものではありません。
たとえば異性愛者であっても、異性との交際経験がない人はたくさんいますよね。同じように、バイセクシュアルの中にも、
・男女両方との交際経験がない
・異性とだけ付き合ったことのある
・同性とだけ付き合ったことのある
・ノンバイナリーの人とだけ付き合ったことがある
など、さまざまな人が含まれます。
そして、どのような経験を持っていたとしても本人がバイセクシュアルだと認識しているのであれば、それは尊重されるべき確かなアイデンティティです。
まだ気づいていないだけで、本当は異性愛者/同性愛者だ
バイセクシュアルは、異性愛と同性愛の「中間」や「経過地点」ではなく、それ自体がひとつの性的指向です。たしかに、人の性的指向は時間とともに変化する場合もあります。これをセクシュアル・フルイディティ(性の流動性)と呼びます。
ただし、その可能性があるからといって「本当は違うはず」と決めつけることは、本人が今持っているアイデンティティの否定につながってしまいます。
バイセクシュアルに限らず、いわゆる社会のなかで「普通」とされる性のあり方から外れる人は、「それは一時的なものでしょ」と言われてしまいがちです。しかし、自分が今どう感じているか、どう名乗るかこそが大切なのであり、他の人がとやかく口を出す問題ではありません。
結局は異性と結婚するんでしょ?
たしかに日本では同性婚が認められておらず、法制度や社会の仕組みのほとんどが異性愛を前提に作られています。またテレビや映画、小説などの物語の多くも異性カップルを中心に描いており、同性カップルの姿はまだまだ少数派です。
そんな社会では、同性のパートナーとの将来を具体的に思い描くのが難しく、結果的に異性との結婚を選ぶ人もいるかもしれません。
しかし、それは「本人の気持ちが本当は異性に向いているから」ではなく、社会のルールや価値観が大きく影響していると言えます。
「結局は異性と結婚するんでしょ?」という言葉は、個人の選択を単純化し、社会が作っている制約を見えなくしてしまう偏見なので、注意が必要です。
まとめ
本記事では、バイセクシュアルという言葉の意味や、よくある偏見について紹介しました。
言葉自体の知名度が高まっているからこそ、曖昧なイメージで語られてしまうことも多いバイセクシュアル。
同性愛とセットで語られることも多いため、バイセクシュアルに特有の経験や困難についてはまだあまり知られていないように思います。
悪気なく誰かを傷つけてしまわないためにも、様々な性のあり方について一緒に学んでみませんか。