ロリータ・ファッションが好きなノンバイナリーの話
「女性らしさ」や「男性らしさ」にまつわる周囲からの期待やプレッシャーで、自分にとって心地いい服装をあきらめてしまう。
そんな経験をしたことのある人も、きっと多いのではないでしょうか?
「性別やジェンダーに関係なく自分の好きな服装をすること」は、昔に比べて選びやすくなってきたかもしれません。「女性だから/男性だから」などの決めつけは少しずつ薄まってきたようにも感じますが、それでもまだまだ性別をめぐる「こうあるべき」は根強く私たちの生活に影響を与えています。
今回は、ノンバイナリーの主人公が自身の服装について考えるマンガを通じて、ジェンダーアイデンティティやセクシュアリティと装いの関係について考えてみたいと思います。
性別二元論(ジェンダー・バイナリー)ってなに?
今回のマンガの主人公は、ノンバイナリーを自認しています。
ノンバイナリーとは「男/女という二元的な性別の枠組みに当てはまらない性のあり方」のこと。とはいえ、この説明だけではピンとこない人も多いかもしれません。
この性のあり方を理解するうえで重要なのが「性別二元論(ジェンダー・バイナリー)」です。
性別二元論は男女二元論とも呼ばれ、「性別は“男”か“女”のどちらかである」という考え方のことです。そもそも「バイナリー(binary)」とは、「2つの項を持つ」という意味の英単語です。ジェンダーに関しては「男女という2つの性別だけを前提にする」という意味で使われます。
私たちの生きる社会は、この性別二元論に基づいてさまざまな法律や制度、慣習なども作られています。たとえば、生まれたときに「男女のどちらか」に振り分けられること。これも、この男女二元論を前提としています。
そして、ノンバイナリーとはこの既存の男女二元論には当てはまらない性自認を持つ性のあり方のこと。この男女二元論の前提が根強い社会では、その性別の枠組みに当てはまらないノンバイナリーの人たちは、社会の中でしばしば「いないこと」にされてしまいます。
ファッションと性のあり方の関係
ところで私たちは、普段どのようにファッションと性のあり方を結びつけて考えているでしょうか?
自分の性のあり方と、自分がどんな服装をするかには結びつきがある、と感じる人も多いと思います。また、普段出会う人の性のあり方をその人がどのようなファッションをしているかで推測することもあるのではないでしょうか。
日常生活では戸籍や身分証を提示する機会はあまりないからこそ、私たちは相手の見た目やふるまいをもとに、無意識のうちに性別を推測しがちです。
具体的には
- 服装や髪型、メイクの有無
- 声の高さや話し方、しぐさ
- 姿勢や身体の動かし方
などなど…
しかし一方で「ファッションやふるまいは、必ずその人の性自認に沿って選ばれる」かというとそんなことはありません。
- ベリーショートの女性
- “男性的”とされるファッションを好む女性
- メイクを日常的にしている男性
- 声の高い男性
がいることからもわかるように、性のあり方と外見やふるまいの間に絶対的な関係はなさそうです。
そのため見た目やふるまいから相手の性のあり方を決めつけることは、ミスジェンダリングにもつながってしまいます。
※ミスジェンダリングとは当人が持つ性自認とは異なる性自認で扱ったり、望まない代名詞で呼ぶこと。
ノンバイナリーは必ず中性的?
マンガでも描かれていたように、ノンバイナリーの人は周囲から
「ノンバイナリーっぽくないね」
「女性/男性寄りってこと?」
といった言葉を向けられることがあります。
「女性は女性的な格好をするもの、男性は男性的な格好をするもの」
そんな性別二元論に基づく価値観が根強く残っているからこそ、今回のマンガの主人公のようにノンバイナリーであることを“証明”するためには「中性的な服装やふるまいをしなければ」と感じたことのある方も多いのではないでしょうか。
マンガの主人公はロリータファッションを楽しんでいますが、今日の社会のなかでロリータファッションはレースやフリル、華やかな色味などを含め「女性的」と振り分けられるファッションでもあります。
そのため主人公は「ノンバイナリーらしくない見た目をしている」と批判をされてしまうのです。しかし、“ノンバイナリーらしい見た目”という正解があるわけではありません。
ノンバイナリーとひとくちに言っても、その性のあり方は実にさまざま。
- 性別がないと感じる
- 日によって揺れ動く
- 男性・女性両方の要素があると感じる
- 女性の要素が強めなノンバイナリー
などなど…
マンガの主人公のようにロリータを好む人もいれば、“中性的”とされるような服装に安心感を覚える人、毎日の気分によって装いを変える人もいます。
さいごに
服装は「自分らしさ」や「その日の気分」を表す大切な手段です。けれど同時に、「男らしさ」や「女らしさ」といった社会の期待が強く反映されるものでもあります。
そのため、ファッションやふるまいが「性のあり方に合っていない」と周囲から見なされてしまうことも…。そのことで違和感を持たれたり否定的な反応をされたり、ミスジェンダリングされてしまうことも少なくありません。
しかし本来、個人の装い(ファッションやふるまい)とその人の性のあり方は別ものです。
見た目だけで誰かの性別やセクシュアリティを決めつけないこと。そして自分自身に対しても「こう見せなければならない」という思い込みを手放し「自分が心地いい」と感じられる選択を大切にすること。
そうした視点が、誰もが安心して自分らしく生きられる社会につながっていくのではないでしょうか。