デミセクシュアルってなに?アセクシュアルとの関係や性的惹かれの種類について

みなさんは、「デミセクシュアル」というセクシュアリティを知っていますか?
デミセクシュアルとは、相手との信頼関係がある場合にのみ性的な惹かれを経験することがあるセクシュアリティのこと。
近年、他者に対して性的な惹かれを経験しない/しづらい性のあり方であるアセクシュアルについては、認知度も少しずつ高まってきたと感じました。
しかし、まだまだこのデミセクシュアルについては「聞いたことがない」という方も多いかもしれません。今回はこの「デミセクシュアル」について、よくある誤解や偏見も交えながら解説して行きます。
デミセクシュアルとは
冒頭でも触れた通り、デミセクシュアルとは、他者と信頼関係がある場合にのみ性的惹かれを経験することがあるセクシュアリティのことです。広義のアセクシュアルに含まれる、アンブレラタームとされています。
アセクシュアリについてより詳しく知りたい人はこちらの記事をご覧ください。
デミセクシュアルに当てはまらない人であっても、「特定の基準が満たされるまでセックスをしない」という価値観を持つ人もいると思います。
たとえば、
「ある程度デートを重ねた上で」
「交際を初めてから一定の期間がたった段階で」
「クリスマスや誕生日などのイベントをきっかけにして」
などの基準があるかもしれません。これらは多くの場合、それぞれのカップルや個人の選択ですが、デミセクシュアルの特徴は性的に惹かれるまでに強い信頼関係を構築する必要があるという点で異なります。
アセクシュアルとデミセクシュアルの違いって?
アセクシュアル(Aセクシュアル、アセク)とは誰に対しても性的惹かれを感じない、もしくは、ごく限られた状況でしか持たない人を指す言葉です。「セクシュアル」とついていることからもわかるように、これは性的指向の一種であり、LGBTQ+の一部として認識されています。
そして、今回のテーマであるデミセクシュアルは性的惹かれを感じる機会が限られているため、性的惹かれを経験しない狭義のAセクシュアルと、性的惹かれを経験するアロセクシュアルの間に広がるグラデーション(アセクシュアル・スペクトラム)の一部とみなされることが多いです。
このアセクシュアルのスペクトラムに含まれるとされている性のあり方は他にもたくさんあります。
- (狭義の)アセクシュアル:性的魅力や性的関係を持ちたいという本質的な欲求を経験しない人。
- グレーセクシュアル:アセクシュアルとアロセクシュアル(アセクシュアルではない人)の中間に位置する人。たとえば、性的惹かれを経験するのはごく稀である人、また特定の状況下でのみ性的惹かれを経験する人、人間関係においての重要度が極めて低い人などが当てはまります。
- フレイセクシュアル(Fraysexual):深い関係性がない他者にのみ性的に惹かれ、関係が深まるにつれて性的魅力を感じなくなるセクシュアリティのことで、デミセクシュアルの対義語に位置付けられます。
つまり、アセクシュアルスペクトラムという大きな傘の下にあるのがデミセクシュアル、と捉えることができます。
次の章からは、デミセクシュアルについてより深く見ていきます
一次的性的惹かれと二次的性的惹かれって?
デミセクシュアルについて理解するときにポイントになるのが、「一次的・二次的な性的惹かれのモデル(primary vs. secondary sexual attraction model)」と呼ばれる考え方です。
この考え方は、個人が誰かに対して感じる性的な惹かれを「一次的(Primary)」と「二次的(Secondary)」の2つに分類するというもので、特にAセクシュアルやデミセクシュアルのコミュニティで用いられてきた概念です。
一次的な性的惹かれ:見た目や匂い、声、動作など、瞬時に得られる外見的な情報に基づく性的惹かれのこと
二次的な性的惹かれ:性格や価値観、人生経験、知性、ユーモアなど、時間をかけて知る要素に基づいて形成される性的惹かれのこと
この2つのうち、二次的な性的惹かれのみを経験するのがデミセクシュアルです。ただし、個人によって性的惹かれを感じるタイミングやその感じ方は異なります。デミセクシュアルには当てはまらなかったとしても、二次的な性的惹かれの方をより重視する方もいるかもしれません。
実は「性的な魅力」という一般的に広く使われる言葉のなかにも、複数のレイヤーが存在しているのですね。
デミセクシュアルに対する誤解と偏見
近年、アセクシュアルの知名度が少しずつ高まってきた一方で、デミセクシュアルについてはまだまだ知られておらず、多くの誤解や偏見が残っています。
「デミセクシュアル=セックスに慎重な人」
デミセクシュアルの人は単にセックスについて 「奥手」なのではありません。「性的に惹かれるまでに相手との感情的な絆を深める必要がある」というところがポイントです。デミセクシュアルとは「どのように性的惹かれを感じるか」に関するセクシュアリティで、「性的な行為をするかどうか」という個人の選択とは別のもの。デミセクシュアルであることは必ずしも本人の性的な行動を制限しないので、「セックスをするまでに時間を要する人」という理解はあまり正確ではないかもしれません。
「デミセクシュアルは恋愛をしない」
恋愛的な惹かれを経験しないデミセクシュアルの人もいますが、すべてのデミセクシュアルの人々がそうであるわけではありません。恋愛的な感情を持つデミセクシュアルの人もいますし、そうした人々はロマンティックな関係を築くこともあります。このように、恋愛的な惹かれを経験しない人のことをAロマンティックといいます。
このような、従来「普通」とされてきた恋愛や交際の関係に当てはまらないパートナーシップのことを、クィア・プラトニック・リレーションシップ(QPR)と呼びます。QPRについて詳しく知りたい方はこちらの記事をお読みください。
「デミセクシュアルは相手の外見を重視しない」
デミセクシュアルの人でも「美的惹かれ(Aesthetic attraction)」を感じることがあります。美的惹かれとは、他者の外見に惹かれるけれど、必ずしも恋愛や性的な魅力は感じないこと。デミセクシュアルの人はこのような外見に対する惹かれを感じることもあり、必ずしも「相手の見た目は関係ない」というわけではありません。
人が他者に感じる魅力には、この美的惹かれの他にも実はたくさんの要素が含まれています。
4つのアトラクションモデルについてより深く知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
まとめ
現代の日本社会には性的な惹かれを経験することを「あたりまえ」とする風潮が根強く、また性的な惹かれや恋愛的な惹かれを一緒くたにされてしまう場面も多くあります。
そのような中でアイデンティティを否定するような言葉をかけられ、「自分は何かがおかしいのではないか」と悩んでしまうデミセクシュアルの方も存在します。
まだまだ認知度の低い「デミセクシュアル」というセクシュアリティについて、より多くの人が正しい知識を身につけることで、誰もが自分らしく生きられる社会につながっていくのではないでしょうか。
パレットークでは、デミセクシュアルの方の体験談を随時募集しています。こちらのフォームよりお寄せください。
参考
- https://wiki.asexuality.org/w/index.php?title=Demisexual
- https://www.asexuality.org/?q=grayarea
- https://acearobu.com/what-demisexual/
- 三宅大二郎・今徳はる香・神林麻衣・中村健,2024,『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシュアルのこと』明石書店.