トランスジェンダー男性の僕が高校で出会った友達との関係の話。
今回ご紹介するのは、通信制の高校に通うトランスジェンダー男性の方から寄せられた体験談です。希望の学校に通えることになり、仲のいい友人もできましたが、ふとした瞬間「友人たちは、自分のことを『ボーイッシュな女の子』として見ているのかも...?」という考えがよぎります。親しい間柄だからこそ、カミングアウトにはとても勇気がいる。そんなことをあらためて感じさせるエピソードです。
トランスジェンダー男性「ユウ」の体験談。これは、通信制の高校に入学した、トランスジェンダー男性の僕の話です。僕は高校進学のタイミングで、なるべくストレスを感じずに通えそうな学校を選びました。
名簿は男女混合、制服ではなく私服で通学できるなどなど…。自分らしくいられる場所かも…!と期待していました。ここがいい!と高校のパンフレットを母に見せているユウ。
実際、入学手続きの際、「自分の名前はユウカですが、性自認に合わせてユウという名前に変えてほしいです」と先生にお願いしたところ…。正式に名簿やクラスでの呼び方を変更してくれました。この対応は本当に嬉しかったです。名簿の名前が「ユウ」に変わっていて感動しているユウ。
ユウ「男性として過ごせる場所に通うことができる…!」そんな気持ちで学校生活に踏み出しました。ウキウキした表情で高校に通うユウ。それは学校生活が始まって、僕が1人でいたときのこと…。授業が終わってふーと筆記用具をしまっているユウ。隣りにいた女性グループの一人がユウの方を向く。
ユウに声をかける女子A「ねえねえ、よかったら一緒に話さない?」ユウ、びっくりするが嬉しそうな顔で「うん!」と返す。
気さくに声をかけてくれたおかげで、僕は彼女たちとすぐ仲よくなりました。3人の女声グループの中に入り、自己紹介しているユウの様子。それから、一緒に帰ったり、遊んだり、だべったり…彼女たちと一緒にすごす時間が多くなりました。
飲食店で楽しそうに話している4人。しかし、その空気感を「楽しい!」と思うのと同時に…複雑な気持ちも湧き上がってきます。
「もしかしたら自分は『ボーイッシュな女の子』として見られているのかも」そう感じることが多いからです。彼女たちの僕のことを「女の子」と認識しているからこそ、グループの一員として自然に受け入れてくれたんじゃないか…と。ユウ「確証があるわけじゃないけど、なんとなく感じる…」
たしかに、ホルモン治療も手術も受けていないので、僕が男性として生きていることは伝わりにくいと思います。しょうがないよね…という気持ちを抱えているユウ。ですが、「男性として接してほしい」という自分自身の思いが強まってきているのもまた事実…。
彼女たちのおかげで、孤独を感じず充実した学校生活を送ることができています。僕にとって、大切な友達です。でも、だからこそ「僕はトランスジェンダーで、性自認は男性なんだ」と説明するのは、とても勇気がいること…。「否定されたら…」「理解されなかったら…」という不安を抱えているユウ。
ユウ「周囲の人が僕のことを男性として扱ってくれるようになるには、すごく時間がかかるのかもしれないな…システム面だけじゃなく…」と教室で考えているユウ。友人Bが「ユウ〜!一緒に帰ろ〜!」と声をかけてくる。後ろには友人Aもいる。
カミングアウトをしたとき、友人たちがどんな反応をするかはわかりません。友人B「◯◯寄ってこ~」ユウ「いいね!」と荷物を持って席を立つ。それでも、僕にとって大切な存在だからこそ、少しでも彼女たちに伝えていけたら…そう思っています。友人Cも合流し4人が楽しそうに話している。おわり。

【マンガで解説】トランスジェンダー男性の体験談から考える、「相手の性のあり方を決めつけない」ことの大切さ

トランスジェンダー男性の僕が高校で出会った友人との関係の話

LGBTQ+について耳にする機会は増えてきたものの、それぞれのセクシュアリティについてきちんと知る機会は、まだまだ多くないのではないでしょうか。

たとえばLGBTQ+のTにあたるトランスジェンダーについて、「トランスジェンダーってこういう人のことかな」となんとなくわかったつもりでいても、「メディアなどで描かれる画一的なイメージをそのまま信じていた」なんてこともあるかもしれません。

今回の記事では、トランスジェンダー男性である読者の方から寄せられた体験談マンガを紹介しながら、「トランスジェンダーとはどんな人を指す言葉か?」という基本事項から、学校という場で直面しやすい困難やカミングアウトの難しさまで、一緒に確認していきたいと思います。

トランスジェンダーってなに?

トランスジェンダー(Transgender)とは、一般的に出生時に割り当てられた性別と、ジェンダー・アイデンティティ(性自認・性同一性)(*1)が異なる人のことを指す言葉です。

ただし、トランスジェンダーの人のなかには「ジェンダー・アイデンティティ」という概念自体が自分にはしっくりこないと感じている人もいるため、出生時に割り当てられた性別とは異なる性のありようを生きている人という定義が使われることもあります。

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今回紹介したマンガの主人公はトランスジェンダー男性。つまり、出生時に割り当てられた性別が女性で、ジェンダー・アイデンティティは男性、という人です。

トランスジェンダー男性
・出生時に割り当てられた性別:女性
・ジェンダー・アイデンティティ:男性

トランスジェンダー女性
・出生時に割り当てられた性別:男性
・ジェンダー・アイデンティティ:女性

ちなみに、「女」「男」というどちらの枠組みにもあてはまらないノンバイナリーの人も、出生時に割り当てられた性別と、ジェンダー・アイデンティティが一致していないという点で、広い意味ではトランスジェンダーに含まれるとされています。

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一方で、出生時に割り当てられた性別とジェンダー・アイデンティティが一致している人、つまりトランスジェンダーではない人は、シスジェンダー(Cisgender)と呼ばれています。

(*1)「性自認」と「性同一性」はどちらも「ジェンダー・アイデンティティ(Gender Identity)」の訳語であり、それぞれの漢字が持つニュアンスを理由に使いわけられることもありますが、意味は同じです。

「出生時に割り当てられた性別」と学校生活

ここまでに出てきた「出生時に割り当てられた性別」という言葉には、あまり馴染みのない方も多いかもしれません。

あらためて考えてみると、私たちの暮らす社会では子どもが生まれるとすぐ、必ず男女どちらかのカテゴリーにわけられますよね。

現在の日本の社会システムでは、人が生まれたとき、公的な記録(戸籍など)にその存在が認められると同時に、 性別が登録されることになっています。 

そしてこの登録された性別は、その後の人生における様々な公的な手続きや社会的な扱いの前提となっていくのです。

たとえば、学校生活における制服はこれまで、出生時に割り当てられた性別に基づいて指定されることが一般的とされていました。

「男子はスラックス」
「女子はスカート」

しかし近年では、今回体験談を寄せてくださった読者さんの学校のように、私服で通える学校や、性別にかかわらず自由に制服を選べる学校も増えています。

こうした取り組みは、トランスジェンダーの当事者にとってとても大切です。自分のジェンダー・アイデンティティと異なる扱いをされ続けることは、大きな苦痛をともなうからです。

ミスジェンダリングとその影響

相手の性自認と異なる性別で呼んだり扱ったりすることは「ミスジェンダリング」と呼ばれます。ミスジェンダリングを受けた人は、自身の存在が否定され、「いないもの」とされているように感じます。これが日常的に続くと、精神的健康や社会生活への悪影響が指摘されています。

だからこそ、学校が本人の希望に基づいて

  • 通称名を導入する
  • 制服の選択肢を広げる

といった対応を行うことは、子どもの尊厳を守るために重要な取り組みのひとつといえます。

ただし、このように制度が少しずつ整ってきても、ミスジェンダリングは起こり得るもの。

今回の体験談では、主人公のユウさんが友人との関わりのなかでこんな思いを抱きます。

「自分はボーイッシュな女子だと思われているのかな…」
「だから友人グループに受け入れられているのかも…?」

日本社会では、トランスジェンダーであることをカミングアウトするハードルは依然として高いままです。多くの人は安全のためカミングアウトをせず、カミングアウトをした場合にはいじめや嫌がらせを受けてしまうことも少なくありません。

しかし、シスジェンダーであることが前提とされる社会でカミングアウトをせずに過ごすことは、マンガでも描かれていたように自分の存在を「ないもの」にされるような違和感を抱えて過ごすことにつながり、さまざまな困難が生まれてしまいます。

そのため、リスクを負ってカミングアウトするか、ミスジェンダリングによる違和感に耐えるかの板挟みを抱える状況が、今回のマンガでも描かれていました。

もし、カミングアウトをされたら

本来、本人が安心して性自認を伝えられる環境であればミスジェンダリングは起きにくいものですが、現状の社会では「カミングアウトしない限り誤った扱いをされてしまう」状況が残っています。

しかし、そのカミングアウト自体にリスクが伴うため、多くの当事者は大きな葛藤を抱えています。

こうした背景があるからこそ、誰かがカミングアウトをするというのは、その人が大きなリスクを背負って「伝える」という選択をしたということでもあります。

そして「カミングアウトされたとき、相手がどのような反応を示すか」は当事者の安全や健康にとって重要な要素になってきます。

もしみなさんが誰かからカミングアウトをされたら、少なくとも

  • 第三者に勝手に伝えることは絶対にしない
  • 自分の中にあるイメージを相手に押し付けてしまう発言には注意する

という点は心に留めておきたいところです。

その上で、もしその人がなんらかのサポートを必要としている様子であれば、本人と話しながら「どんなことができるのか」を一緒に考えていけるといいですね。

また、ユウさんが家族や担任の先生にはカミングアウトをしていたように、セクシュアリティを開示する範囲は人によってさまざまです。

たとえば…

  • 家族にはカミングアウトしているが、友人には話していない
  • 家族以外にはカミングアウトしている
  • 限られた親しい友人グループにのみカミングアウトしている などなど…

もし不安であれば、「誰にカミングアウトをしているのか/したくないのか」ということをその人に聞いてみるのもいいかもしれません。

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さいごに

今回の記事で見てきたように、ミスジェンダリングが起きてしまうことやカミングアウトのしづらさの背景には、当事者個人の努力ではどうにもならない「社会の側に根付いた前提」から生まれる部分が大きいものです。

だからこそ、まず私たち一人ひとりができるのは、「相手の性のあり方を勝手に推測しない」という姿勢を持つことではないでしょうか。

その小さな姿勢の変化が、誰かにとっての安心につながります。
少しずつでも、一緒にできることからはじめてみませんか?

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