ポリアモリーってなに?複数愛のあり方とよくある誤解を解説

恋愛やパートナーシップの多様なあり方が少しずつ知られるようになってきた今日。「ポリアモリー」という言葉を聞いたことがある人も増えてきたのではないでしょうか?
とはいえ、「複数の人とパートナーになる」というのが具体的にどのようなあり方なのか、イメージがつかないという方もまだまだ多いと思います。
今回の記事では、ポリアモリーとはなにか、そしてよくある誤解や偏見について解説していきます。
ポリアモリー(Polyamory)とは…
ポリアモリーとは、合意のもとで複数のパートナーと同時に関係性を築く交際形式のことで、現代において多様化する愛の形の一つとして注目を集めています。
「ポリアモリー」という言葉は、ギリシア語で「複数」を意味する「Poly」と、ラテン語で「愛」を意味する「Amor」を組み合わせた造語で、日本語では「複数愛」と訳されます。
反対に、一対一の関係性を築く交際形式のことは「モノガミー」と呼びます。
私たちの生きる社会は、基本的にモノガミーであることを前提にさまざまな社会制度がつくられ、また人々の価値観もモノガミーを『基本』としています。そのため、ここまでポリアモリーの説明を読んで、「それって浮気じゃないの?」と感じた人もいるかもしれません。
しかし、ポリアモリーについて考えるときには「単なる一時的な関係や『浮気』とは根本的に違う」という点を抑えることが大切です。
では、実際にポリアモリーは浮気や一時的な関係とどのように異なるのでしょうか?ポリアモリーを理解するために大切な3つの要素、「同意」「誠実な関係性」「非独占性」について見ていきましょう。
ポリアモリーにおける大切な3つの柱
1. 関係者全員の「同意(コンセンサス)」と透明性
ポリアモリーと浮気・不倫をわける最も重要な要素が「同意(コンセンサス)の有無」です。ポリアモリーの関係は、関わるすべての当事者が【関係性の構造・ルール・そのあり方】を理解し、心から受け入れているという透明性の上に成り立ちます。
一方、パートナーに隠れて他の人と関係を持つ行為は、合意のない「欺瞞」であり、ポリアモリーが核とする「倫理的な非モノガミー性(Ethical Non-Monogamy: ENM)」の原則に反してしまいます。
ポリアモリーの関係性においては、他の人とも関係を持つこと、あるいは持ちたいという気持ち、またそのほか様々な欲望について、パートナーと率直に話し合うことが欠かせないのです。
2. 複数のパートナーとの「親密で誠実な関係」
ポリアモリーは、単に肉体的な充足を目的としたカジュアルな関係の集まりではありません。それぞれのパートナーとの間で、感情的・精神的にも深く結びついた、持続的で誠実な関係を築くことが重視されます。
複数パートナーがいることが、1人ひとりに対する誠実さが少ないこととは結びつかないという点を抑えることも大切です。
3. 「非独占的」な愛と「コンパージョン」の概念
ポリアモリーの関係性において、「愛する相手が増えることは、既存のパートナーへの愛を減らすことではない」と考えられています。むしろ、愛を1人に独占せず、複数の人にわけ与えることで、自身の人生や感情、パートナー関係がより豊かになると捉えることが多いのです。
ポリアモリーを実践することは、従来のモノガミー中心の考え方や、「愛は排他的である」という社会のあたりまえを問い直すことにもつながります。
このように「愛は有限ではなく、特定の誰か一人に独占されるべきものではない」という思想とあわせて、「コンパージョン(Compersion)」という感情も重要です。これは、「自分のパートナーが他のパートナーと幸せそうにしているのを見て、自分自身も喜びや幸福感を感じるという」共感的な喜びの感情とされていて、嫉妬の対極にあるものとして重視されています。
ポリアモリーの多様な実践
一言で「ポリアモリー」といっても、実際にどのような形や関係性、ルールをもって実践するかはカップルや関わる個人によって異なります。
- 階層型(ヒエラルキー型): 主たるパートナー(メインパートナー/プライマリーパートナー)と、副次的な(セカンダリーな)パートナーの間に明確な優先順位や役割分担が存在する形。この場合にも、その関係に参加するすべての人がこの階層や役割について同意していることが前提とされます。
- 非階層型(ノン・ヒエラルキー型 ): すべてのパートナー関係を対等とみなし、明確な優先順位を設けない形。それぞれの関係が独立して重要視されます。
- ソロ・ポリアモリー : 自身を誰の「メインパートナー」とも定義せず、独立した生活を維持しながら、複数の人と深い関係を築く形。
- ポリキュール (Polycule): ポリアモリーの関係性において、互いに結びついている人々のネットワーク全体を指す言葉。ポリアモリーと「アトム/分子(Molecule)」という言葉を組み合わせて作られました。複数の人間(アトム/分子)が、性やロマンティックな関係によって結びついた、1つの複雑な集合体や構造を比喩的に表しています。
人によって、どのような関係性が心地よいと感じるか、パートナーとどのような生活を築くかは、人によってさまざま。それは、ポリアモリーを実践する人に限らず、モノガミーの人であっても同様です。
多様な関係性の可能性や、自分自身の欲望についてより深く知ることがとても大切です。
ポリアモリーに対するよくある誤解と偏見
ポリアモリーは、その倫理的な複雑さゆえに、しばしば表面的なイメージや誤解によって、批判にさらされる場面が多くあります。この章では、そうしたよくある誤解や偏見について見ていきましょう。
誤解1: ポリアモリーは「浮気」「不倫」の言い訳である
ポリアモリーは、関係の透明性と誠実さをもっとも重視します。そのため、嘘や欺瞞、秘密を土台とする浮気・不倫とはまったく異なります。
- ポリアモリー:関係者全員の同意と透明性が必須。誠実さ、正直さ、責任ある行動が中心
- 浮気・不倫:既存のパートナーを欺く行為で、秘密裏に行われるもの。信頼関係の破壊が伴う
誤解2: ポリアモリーを選ぶ人は「コミットメント」を避けたいだけだ
「1人の相手と添い遂げることが何よりも素晴らしいこと」という価値観が根強い社会で、ポリアモリーは「コミットメントを避けたいだけ」という誤解を受けることがまだまだ多くあります。
しかし実際には、ポリアモリーを実践するためには誠実で高度なコミュニケーションとコミットメントを必要とします。複数のパートナーと、それぞれのニーズや不安についてオープンに話し合い、関係性のルールを合意し、それを守り続けることは、非常に大きな責任とコミットメントが必要なのです。
誤解3: 複数の人を愛するのは「真実の愛」ではない
ポリアモリストの多くは、人間の愛の能力を無限で拡張可能なものと捉えています。
またそもそも「なにを真実の愛とするか」は、人によってさまざまですよね。恋愛的な感情を重視する人も、性的な関係性を重視する人も、友愛や「家族」的な愛を重視する人もいます。
誤解4: ポリアモリーってことはバイセクシュアルなの?
ポリアモリーは、複数の人と関係を持つ「関係性の形」を指します。一方、バイセクシュアル(Bisexual)は、性別に関係なく性的惹かれを感じる「性的指向」を指します。
これらはまったく別の概念であり、ポリアモリストの中には、ヘテロセクシュアル(異性愛者)も、同性愛者も、バイセクシュアルも、その他の性的指向を持つ人もいます。ポリアモリーは、誰を何人愛するかという「関係の構造」の問題であり、誰に魅力を感じるかという「性的指向」の問題ではありません。
※ポリアモリストのなかには、ポリアモリーを関係性の形だけでなく、性に関するアイデンティティとして捉える人もいます。
まとめ
ポリアモリーの関係は、まだ多くの人に知られてはおらず、モノガミーが標準とされる社会において差別や偏見に直面することが少なくありません。
しかし実際には、ポリアモリーは愛の形の1つです。
ポリアモリーについて深く知ることは、「愛は独占するもの」「愛は1人に限定されるもの」という固定観念に気づくきっかけになるだけでなく、多様な愛の可能性、人間関係の多様性、そして何よりも「同意と誠実さに基づいた倫理的な関係構築」の重要性を問い直すことにつながるのかもしれません。
参考:Sloan, K. (2022). 200 words to help you talk about sexuality & gender. Laurence King Publishing.
https://feeld.co/glossary/polyamorous-polyamory