Xジェンダーの私が美容院で体験したこと。美容院の椅子に座っている主人公(Xジェンダー)と笑顔の男性スタイリストのイラスト。
マンガのあらすじ。馴染みの美容院で、いつもと違う美容師が担当になったXジェンダーの主人公。「自分は理解がある」と言いつつも、その美容師からは性のあり方を軽々しく扱う発言や差別的に使われてきた言葉が繰り返され、主人公はショックを受けます。セクシュアリティに関する言葉が広がってきた今日だからこそ感じる、根深い偏見を感じさせられるエピソードです。
これは、Xジェンダーの私が、何度も通っている美容院で体験したこと。XジェンダーのA「こんにちは〜」男性美容師「お待ちしてました〜」A「あれ、いつもの人とは違うな」と思う。
A「今日は新人の美容師さんが担当してくれるのかな」と思いながら「ベリーショートでお願いします」と椅子に座る。男性美容師「どれくらいのイメージです?」A、写真を見せながら「これぐらいの感じで…」男性美容師「お〜!結構思いっきり行きますね!」
男性美容師「あ、わかった!もしかしてトランスなんちゃらですか?」と悪気がなさそうに笑顔で言う。それを聞いた瞬間、ビクッとするA。男性美容師「あ、俺そういうの理解あるんで大丈夫っすよ〜!この店にもよく、えるじーなんちゃらの人来ますから!こないだも、あきらかに『ホモ』だろって人も来てましたし!」A「そ、そうなんですね…じゃあ頼もしいです…」と返すが、内心ドキドキヒヤヒヤしている。ショックなことを言われるんじゃないかと、心理的安全性が保たれていない状態。注釈。「ホモ」という言葉は侮蔑的な意味合いがあるので、使わないことが望ましい呼称とされています
施術が終わり、男性美容師「またどうぞ〜!」と爽やかにお見送り。A、素敵な髪型にはしてもらったがげっそりして、よろよろと帰っている。A「トランスジェンダーやゲイといったセクシュアリティ、LGBTQ+という名前について、知っている人も増えてきたな〜とは感じるけど…」
そういう言葉が広がる前には、そもそも、希望する髪型を伝えてもその通りにカットしてもらえない経験をした人も多かったと思います。「女性らしさを残しておきました!」「え!そんな切っちゃっていいんですか?」と言っている美容院のイラスト。だからこそ、「既存の『男女』のイメージに当てはまらない髪型を希望する人もいる」という認識が広がること自体は、とてもいいこと。
…だけど、勝手に相手の性のあり方を決めつけたり、それをことさらに強調して話のネタにする場面は、まだまだ多いのだな…と感じました。A「あの美容師さんがどういう気持ちで言ったのかはわからないけど…『重くないように気軽に扱おう!』ってテンションで、キツイ言葉を使われるのもしんどいときあるしな…そもそも私が性のあり方をオープンにしているかがわからない中で、ああやって大きい声で言うのも…」
言葉が広まるのは大切なことだけど…。大きな塊の一部分が見え、そこには「LGBTQ+」「ゲイ」「トランスジェンダー」という言葉が書かれており、それを周りの人たちが話題にしているイラスト。それだけで、「世の中の偏見がなくなる」ということではないんだな…と感じました。大きな塊のうち、人々に見えていない部分には「歴史」「言葉の意味」「日々の生活で困ること」「制度の課題」など、様々な要素があるイラスト。
①誰もLGBTQ+について知らず、可視化されていないため「シス」「ヘテロ」と想定される。②LGBTQ+の存在が少しずつ知られる。「知らなかった!」「最近よく聞くよね」③もっと可視化が進む。「いろんな人がいるよね」「それを前提にいろいろと考えないとだね」A、その流れが見ながら「まだまだ可視化を進めなきゃいけない段階だと思うけど…」 可視化が進んだ先に、「どんな接し方が相手の安心につながるのか」についても考えてくれるお店や企業が増えたら、もっと通いやすいのになあ…と思います。A「気に入っていた美容院だけど、また別のとこ探すか~、ストレスが少ないところ探すの大変なんだよな…」おわり

【マンガで解説】「Xジェンダーの私が美容院で体験したこと」から考える、“理解あるつもり”が生む傷つきとその背景

「LGBTQ+」という言葉が、日本社会でもここ数年で一気に広がってきました。SNSやメディアを通じて、「いろんな人がいる」「誰もが自分らしく」という言葉を目にするようになったのも、たしかに社会の変化の表れだと言えるでしょう。

でも、その変化の中で「よかれと思って」かけた言葉や、「理解しているつもり」の対応が、実は誰かを深く傷つけていることもあります。

今回の記事では、Xジェンダーの主人公が、美容院で実際に体験したエピソードを通じて、一見“歓迎”や“理解”に見える言動の背景に潜む問題について考えてみたいと思います。

その言葉、本当に大丈夫?

今回紹介したマンガでは、美容師が主人公にこう話しかける場面があります。

「トランスなんちゃらですか?」「 “ホモ”っぽい人も来ましたよ!」

希望する髪型を本人が語っていないセクシュアリティと結びつけ、それを周囲にも聞こえる声で語る様子に主人公はショックを受け、心がざわつきます。

髪型や服装などの外見だけでその人のセクシュアリティを判断するのは、避けるべき行動です。それはあくまで「その人の表現」であって、「好きになる相手」や「生まれたときに割り振られた性別と性自認の関係」との間に絶対的な関係はありません。

また私たちが日常的に使う言葉には、それぞれ語源や使われてきた歴史的な背景があります。たとえば「ホモ」「レズ」「オカマ」といった言葉は、かつて侮蔑的に使われてきた経緯があり、避けるべき表現とされています。

たしかに当事者の中には、これらの言葉を自称として使う方もいます。また、当事者のコミュニティ内では親しみを込めて互いに使われることがあるのも事実です。

しかし、ある人がその言葉に対して嫌な気持ちにならなかったとしても、他の人も同じように感じるかと言えば、そうとは限りません。実際に第三者から「レズ」や「ホモ」と呼ばれて嫌な気持ちになる当事者も多くいます。

相手のセクシュアリティを決めつけてしまうのはもちろん、「理解あるつもり」でかけた一言が、かえって相手に「この人には何を言われるかわからない」という不安を抱かせてしまうこともあります。だからこそ、「その表現、大丈夫かな?」と一度立ち止まって考えることが大切です。

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「自分は平気」とわかったつもりにならないために

「俺、そういうの理解あるんで大丈夫です!」

美容師が発したこの言葉のように「自分には特定のマイノリティの友人や知人がいるので、自分は差別をしていない」とする主張を見かけたことのある人も多いのではないでしょうか。一見寛容な姿勢を示しているように聞こえますが、実はこの考えにも注意が必要です。

ある人が特定のマイノリティ性を持つ誰かと親しくしていたとしても、その人が相手の経験や痛みに対して深く理解できているとは限りません。

「自分は絶対に差別しない人間だ」と決めつけてしまうと、自身の中にあるかもしれない無意識の偏見や、過去の言動を振り返る機会を逃してしまうおそれがあります。

その結果として、当事者が感じた違和感や傷つきに対して「その反応は過敏すぎる」「気にしすぎではないか」といった形で片づけてしまうことにもつながりかねません。また、「差別ではない」「悪意はなかった」と言い切ってしまうことで、相手が実際に感じた傷つきや違和感を「なかったこと」として扱ってしまう危険性があります。

「自分は絶対に差別しない」とは誰もが言い切れませんが、差別に反対することはできます。つねに「どう受け取られたか」にも耳を傾け、対話を重ねていくことが大切なのではないでしょうか。

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「何も言えなくなる」不安について

「そんなこと言ったら、何も言えなくなっちゃうじゃん」
「どう接したらいいのかわからないよ」

そう感じたことがある人もいるかもしれません。

悪気はなかったのに相手を傷つけてしまったり、「配慮のつもり」がうまく伝わらなかったりした経験があると、次は何を言えばいいのか迷ってしまうのも自然なことです。

しかし本当に大切なのは「正しい言葉を完璧に使うこと」ではなく、その都度「相手がどう受け取ったか」に目を向けることなのではないでしょうか。

  • もし相手が少し戸惑っていたら、「ごめん、何か気になることがあったら教えてね」と声をかけてみる。
  • わからないことがあれば「教えてもらえると嬉しい」と丁寧に聞いてみる。

完璧を目指すよりも、それぞれの関係の中で少しずつ言葉を選び直していけることの方が、ずっと大きな安心感につながるはずです。「何も言えなくなる」ではなく、「どう言えば安心につながるか」を一緒に探していくことで、誰もが心地よくいられる関係性を築くことができるのではないでしょうか。

さいごに

「LGBTQ+」という言葉や、それに関する言葉、当事者の存在が少しずつ知られるようになってきた昨今。それ自体はとても大切なことですが、言葉が広まるだけでは偏見がなくならないのかも…と考えさせられるのが、今回のエピソードです。

無意識のうちに相手の性を決めつけたり、話のネタとして強調したりする場面は残念ながらまだ多く残っています。

また「よくわからないけど、重くならないようにしよう」という空気の中で、使わないことが望ましい言葉を使ってしまったり、当事者が傷つくことも少なくありません。

多くの人が当事者の現状を理解し、社会制度を考えるためには、さらに多くの可視化が必要です。

言葉だけでなく、その背景や当事者の困りごとなどを知るためにも、この機会に、一緒に学び、考えてみませんか?

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