水上文『クィアのカナダ旅行記』/パレットークおすすめ図書 #05

今回の記事では、選書フェア「 “ストレート”じゃない未来をあなたと想像するためのブックフェア」にご参加いただいた水上文さんの新刊『クィアのカナダ旅行記』をご紹介します。

書籍情報

『クィアのカナダ旅行記』水上文 著
2025年 柏書房
定価 1760円(本体1600円)
四六判 216ページ

著者プロフィール

水上文(みずかみ・あや)
92年生。クィアでフェミニストのライター。著書に『クィアのカナダ旅行記』(柏書房)、企画編著に『われらはすでに共にある 反トランス差別ブックレット』(現代書館)。フェミニズム雑誌『エトセトラ VOL.13』の「クィア・女性・コミュニティ」特集編集。

本の紹介

旅行は、わたしたちにさまざまな「ありえたかもしれない生活」を想像させてくれます。

訪れた土地や、そこに根付いたコミュニティの歴史を知り、まったく異なる人生を歩んできた人々と出会う。
公共空間のあり方やお金の流れ、街行く人のふるまいから装いまで観察してみる。

そんな体験のなかで「もし自分がここで暮らしていたら、どんな人生だったのだろう?」と想像し、これまで持っていた “あたりまえ”をその外側から捉えなおしてみると、自分にとっての日常が、実は社会のあり方によって想像以上に制限されていたのだということに気づかされます。

本書では、カナダを訪れた水上文さんが、クィアな人々が「いる」ことが前提とされ、その存在がいつも当たり前に感じられる空間が街にあふれていることに驚く、という場面が繰り返し登場します。

2005年に婚姻の平等が実現したカナダでは、人権憲章の差別禁止事項に性的指向も性自認もジェンダー表現も含まれており、ヘイトクライムを罰する法律も存在します。一方日本では戸籍上同性どうしの結婚が今も認められず、LGBTQ+を含むあらゆる属性への差別やヘイトクライムを禁止する法律がないだけでなく、法律上の性別変更には厳しい条件が課せられたままです。

カナダが「完全に抑圧のない場所」とは言えないにしても、日本との圧倒的な違いを街の隅々で感じた水上さんは、「可視性」という言葉の意味を初めて知ったような気がしたといいます。

どんな可能性が実現可能なものとして認識されているのか、どんな可能性が真に選択肢のひとつとしてありえている社会に生きているのか? 何が「見える」のかは、おそらくそれに関わっている。可能性が確かに身近なものとして存在していないと、目の前に存在していたとしても見ることができないのだ。(『クィアのカナダ旅行記』P.208)

プライドマンスは終わってしまうけれど、クィアな人たちの生活はこれからもずっと続いていきます。本書を読んでいると、すべての人が恐れることなく未来を思い描くためには、まず社会の根幹となっている法律が率先して「シスジェンダーの異性愛者以外のあり方を持つ人も確かにすでにここで生きている」ということを示していく必要があるのだと、改めて実感させられます。

現在開催中の選書フェアに関心を持ってくださったすべての方々、そしてあらゆる事情で旅行に出かけることがむずかしい方々にぜひ読んでいただきたい一冊です。今いる場所からすぐには外へ出られなくても、水上さんの視点を借り、想定された範囲を飛び越えて未来を想像することができるはずです。

「The Future Is Queer ”ストレート”じゃない未来をあなたと想像するためのブックフェア」開催中です 📖

🗓️ 開催期間
6/28(土)〜7/31(木)
*フェア開催中に編集部の在店イベントを行う予定です。日程については後日お知らせいたします。

📍 開催場所
本屋B&B店頭
〒155-0033 東京都世田谷区代田2丁目36−15 BONUS TRACK 2F(エレベーター有)
営業時間:平日 12:00-21:00/土日祝日 11:00〜21:00
※イベントにより変動があるため、詳細は下記ページをご覧ください
🔗 https://bookandbeer.com/journal/from202005/

🔖 選書参加者のみなさま(順不同/敬称略)
中里虎鉄
周司あきら 
水上文
小沼理
高島鈴
近藤銀河
super-KIKI
能條桃子
Palettalk編集部

「『あのときの自分/あの子』に渡したい一冊」と「未来を一緒に想像(創造)するための一冊」の2つのテーマに沿って本を選書して頂いています📚️


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