アロマンティック・アセクシュアルの私が、親友と付き合ってみてわかったこと。
私は、5年ほど前にアロマンティック・アセクシュアルだと自認した会社員です。私の場合は誰かに性的に惹かれたり、恋愛感情を持ったりしないという言語化がしっくりきています。
同期のKは、そんな私のセクシュアリティをカミングアウトしている、親友のような存在です。最近は、会社の人から「彼氏いないの?」と聞かれることも多く…。ちょっとうんざりしている主人公。
また、最近は、「恋愛や性行為をしないお付き合い」についての発信も見て…。スマホを見ながら「おっ!」となっている主人公。ある日、ファーストフード店にいる主人公とK。主人公「そういうのもあるわけだし、うちら付き合ってみるの、どう?」とKに提案する。
「ありかも」と、KはあっさりOK。Kは異性に性的欲求を持つのですが、お互いに話し合い、パートナー間以外で済ませてもらうことにしました。
それからは「彼氏いないの?」と聞かれたら「Kと付き合ってる」と返すやりとりができるようになり、ほっとした自分がいました。おそらく、周りからKとの関係を応援されるという状況に、はじめて自分が「一人前の女」になれたようで誇らしく感じていたのかもしれません。
別の女友達とランチしている主人公。友達「へえ〜、そんな付き合い方があるんだね」主人公「恋愛や性行為をしなくても付き合えるもんだよ〜」友達、「ふーむ」と考えている。主人公「うん?」
友達「いや、『恋愛をしている』ように見せるのが社会では大切ってことなのかな…って。大切に思い合っていれば友達のままでもいいはずなのにね」友人の言葉を聞いて、はっとしました。
付き合うことになっても、私と彼の親友としての関係性は変わらないまま。変わったのは、周りからの見られ方だけでした。周りの視線、嬉しそうだったりほっとしたような顔。
「彼氏がいる=恋愛をしている=性行為をしている 『一人前の女性』である」と考えている周りの人たち。そう周りに思われるだけで得られる特別な安心感があるし、この社会ではそう感じさせられてしまうのも、当然だと思いました。そういった価値観の中で受け入れられて、少し嬉しそうにしている主人公の絵。
しかし、異性と性行為をしているから一人前、なんてことは絶対にないはず。そんな自分の気持ちについても、Kと話してみることにしました。これからも、彼と一番の仲良しでいるために。おわり。

【マンガで解説】Aro/Aceの私が親友と付き合ってみてわかったこと。恋愛以外の親密な関係について

「恋愛は人生において不可欠なもの」

そんな価値観を感じる瞬間は、今もなお数多くあります。恋愛がストーリーの中心に据えられ、結婚や恋人関係が人生の「成功や幸福」と結びつけられる映画やドラマ、小説なども多く存在します。その裏返しとして、恋愛や結婚をしない人に対して「かわいそう」「不幸」といったイメージが押し付けられることも少なくありません。

しかし、もちろんこの価値観がすべての人に当てはまるわけではありません。

Aロマンティック(アロマンティック)やAセクシュアル(アセクシュアル)といった性のあり方が少しずつ知られるようになり、「恋愛や性愛を前提としないパートナーシップ」を実践する人や、その考えに共感する人も増えつつあります。

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今回のマンガでは、実際に恋愛や性愛を介さないパートナーシップを築いた主人公が、無意識のうちに抱えていた生きづらさと、その背景にある恋愛中心主義に気づき、あらためてパートナーとの関係を見直すエピソードを描きました。

このエピソードをきっかけに、社会の中に根強く残る恋愛・性愛を重視する価値観と、それに代わる親密な関係の1つであるQPR(クィアプラトニック・リレーションシップ)について解説します。

セクシュアルノーマティビティとは?

「セクシュアルノーマティビティ(sexual normativity)」とは、Aセクシュアルの当事者による運動や研究の過程で生まれた概念です。これは、性的惹かれを経験することを「人としての成熟」や「健康」と結びつける価値観を指し、カップル関係や愛、親密さにおいて、セックスが最も重要なものとみなされる規範を意味します。

社会には、「人は成長するにつれて恋愛をし、最終的に結婚するのが自然な流れである」という価値観が根付いています。そして、恋愛関係や婚姻関係には性愛の要素も当然のものとして組み込まれることがほとんどです。

この考え方は、家族や友人、職場など、日常生活のあらゆる場面で前提とされており、無意識のうちに押し付けられることも少なくありません。たとえば、「いい人はいるの?」という質問や、「いつか運命の人に出会うよ」といった言葉は、恋愛が人生において不可欠であるとする価値観から生まれるものです。

そして、恋愛的な惹かれや性的惹かれを持たないAロマンティックやAセクシュアルの人々は、こうした根強い規範の中で、「まだ本当の恋を知らないだけ」「経験不足なのでは」といった誤解を受けることがあります。

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今回のマンガの主人公も、親友と交際をはじめたことによって「ほっとした」ような感覚を持ち、この裏には社会の規範に対するプレッシャーがあったと気づくきっかけになっていました。

QPR(クィアプラトニック・リレーションシップ)の可能性

パートナーシップに関して、恋愛や性愛、結婚を前提とする価値観は今なお強く根付いています。しかし近年、こうした「当たり前」とされてきたパートナーシップとは異なる関係性を築く人も増えてきています。

その一例が、QPR(クィアプラトニック・リレーションシップ)と呼ばれる関係性です。QPRとは、恋愛関係ではないものの、深い絆や生涯のパートナーシップを持つ関係を指します。

QPRの形態は多様であり、パートナーシップごとに捉え方や実践のあり方は異なりますが、たとえば以下のような関係があります。

共同生活を送る関係:経済的・精神的なサポートをしながら、ルームメイトのような形で生活を共にする。

法的な契約を結ぶ関係:必要に応じて医療同意権や遺産相続の権利を持ち、人生の最優先の存在として関わる。

複数人で支え合う関係:1対1の恋愛関係ではなく、互いにとって大切な存在としてグループで共同生活をする。

一見、「友情以上恋人未満」や「友情と恋愛の中間」に位置する関係と考えられがちですが、QPRはあくまで恋愛を前提としない関係です。 そのため、従来のパートナーシップの枠組みにとらわれることなく、個々の関係性に応じた形を選ぶことができます。

そもそも、「友情以上恋人未満」という表現には、「恋愛関係の方が友情関係よりも重要である」という価値観が根底にあるのではないでしょうか。 しかし、実際には友情やその他の親密な関係も、人の人生において大きな意味を持ちえます。

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さいごに

従来の恋愛関係にとらわれないパートナーシップが注目を集める一方で、今なお「恋愛をして、結婚をする」というストーリーが当然視される価値観は根強く残っています。

また、日本を含む多くの国では、法律上の家族関係やパートナーシップは主に「従来の結婚」を前提に作られているため、QPRのような関係性は、法的に保障されにくいという課題があります。 その結果、実際にQPRを実践する人が社会的に尊重されない/法的な保護を受けられないことで、関係を築くことや維持することに困難を抱えるケースも多くあります。

恋愛的な惹かれや性的な惹かれを持たないAロマンティックやAセクシュアルの人々も含め、パートナーとの関係性が十分に尊重される社会を実現するためには、恋愛や性愛を前提とする規範を見直し、多様な関係性を認めることが重要です。

恋愛や結婚だけが人生の中心である必要はありません。 それ以外の関係性も尊重し、多様なつながり方を認めることで、より多くの人が生きやすい社会を築けるのではないでしょうか。

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