パンセクシュアルの私が思うこと
「もしも相手が異性だったら、付き合いたいのに」そんな言葉を聞いたパンセクシュアル(相手の性別に関わらず惹かれるセクシュアリティ)の女子大学生の主人公が、レズビアンである恋人と話をする場面が描かれます。異性愛が前提とされがちな社会の中で、主人公は自身の性のあり方への誤解や、ときに「性のあり方の一部が存在しないもの」として扱われることなどについて、考えを深めます。
大学の教室でにて、ゼミの女性たちが話している。ゼミ生A「ユーカが男子だったら付き合ってたのにな〜」こういう会話はよく耳にするけど、正直、私はピンとこない。
今まで好きになった人のジェンダー・アイデンティティはバラバラだった。女子中学生、男子高校生、ノンバイナリーの大学生、今付き合っている女性の大学生。共通して「雰囲気が柔らかくて穏やかな人」が多く、趣味を一緒に楽しめる人であることも共通していた。相手と映画を見たり本を読んでいる主人公。
主人公「私の場合は、その人の醸し出す雰囲気や、言葉、考え方を好きになると思っているので、 『パンセクシュアル=相手の性別に関係なく惹かれるセクシュアリティ』だと自認しています、今のところは」レズビアンの彼女とカフェでレポートを書いている主人公。「だから、『相手が異性であれば、好きになる』っていう友達の会話がピンとこないんだよね」
主人公「私は、相手のジェンダー・アイデンティティとは関係なく惹かれるから」彼女「なるほどね〜。相手の性別がどう、という前に、その雰囲気や考え方があって、好きになって、結果その人の性別がついてくるような感覚?」主人公「私の場合はそうだね」
彼女「そっか〜。私は女性だけ好きになるセクシュアリティだから、その感覚はなかったかも。性のあり方は違うけど、こうやって付き合うこともあるんだね〜」主人公「ね〜〜〜」くつろいでいる二人。ジェンダー論のゼミで出会った彼女とは、一緒に本を読んだり、レポートを書きながら話をするのが好きだ。
でも、どうしてもこの世は異性愛が中心とされているから、異性と付き合えるなら異性と付き合えば?と言われたりして…。「相手の性別に関係なく惹かれるという性のあり方」を、ないことにされることも少なくない。
私が好きになる相手の中には、今の法律上、結婚できる相手とできない相手がいるし。異性カップルにはスポットライトが当たっているが、同性カップルにはスポットライトが当たってないイラスト。世の中の価値観的に、性別のことを気にせず紹介できる相手と、そうでない相手がいる。異性のパートナーは進んで紹介できるが、同性のパートナーはなかなか紹介できない主人公のイラスト。
主人公「以前男性と付き合っていたから、異性愛者扱いされることもあるし…」過去の回想。同性と付き合っている主人公が外から「異性が好きなんじゃなかったの?」と聞かれて「えっ!?」と驚いている。「今どんな性別の人と付き合っているか」「その人の性的指向」主人公「この2つが必ずしも関係があるわけではないってことは、あまり知られてないような気がするな…」
今までに好きになった人たちのことを思い出している主人公。私の中では同じ「好きな人がいる」という状況なのに、相手のジェンダーによって「社会からの扱いが違う=異性との恋愛のほうが壁が少ない」という空気を感じずにはいられない。
でも、今大切に思っている人との付き合いをないことにされるような社会は嫌だし、性のあり方に関係なく、「本当に生涯をともにしたい相手」を選べる世の中であってほしい。主人公の彼女、「新作食べちゃお~」とお菓子の包み紙を開けている。主人公「その相手が、彼女だったらいいな~」と彼女を笑顔で見つめながら思っている。彼女「早くレポート目処つけてくださ~い」主人公「は~~い」

【マンガで解説】異性と付き合っている=異性愛者?「パンセクシュアルの私が思うこと」から考える

みなさんは、誰かのセクシュアリティを「交際相手の性別」で決めつけてしまった経験はありますか?

たとえば、

男女のカップルは皆「異性愛者のカップル」だと思っていた
女性2人のカップルのことを「レズビアンカップル」と呼んでいた

などなど…

こうした何気ない決めつけは、2つ以上の性のあり方に惹かれる人たちの存在を見えなくしてしまうことがあります。

今回の記事ではパンセクシュアルの主人公が登場するマンガを通じて、パンセクシュアル/パンロマンティックというセクシュアリティや、こうしたセクシュアリティの決めつけについて考えてみたいと思います。

パンセクシュアル/パンロマンティックってなに?

パンセクシュアルとはすべての性のあり方の相手に、もしくは相手の性のあり方に関係なく他者に性的な惹かれを感じる性的指向のことで、「2つ以上の性別に惹かれる」という意味での、広義のバイセクシュアルに含まれるとされています。

パンセクシュアルのパン(Pan)はギリシャ語で「すべて」を意味し、また日本語では「全性愛」と訳されることからもわかるように、すべての性のあり方が惹かれる対象となります。

また、恋愛的な惹かれをすべての性のあり方の相手に感じる、もしくは相手の性のあり方に関係なく感じる恋愛的指向は、パンロマンティックと呼ばれています。

読み込み中...

パンセクシュアルに対する誤解・偏見

近年、パンセクシュアルやパンロマンティックについても少しずつ知られるようになってきましたが、まだ十分に理解されているとは言えないのが現状です。

そこで以下では、パンセクシュアル/パンロマンティック当事者に対して持たれがちな誤解や偏見について解説していきます。

「誰でも好きになるってこと?」

パンセクシュアル/パンロマンティックであることは「すべての性のあり方が性的/恋愛的惹かれの対象になりうる」ということであって、「誰でも好きになる」という意味ではありません。他のセクシュアリティと同様に、恋愛感情や性的な魅力を相手に感じるかどうかは、その人との関係性や相性によって違います。

「流行に乗ってるだけ/本当は存在しないセクシュアリティだ」

パンセクシュアル/パンロマンティックという言葉が知られるようになったのは最近のことかもしれませんが、そのあり方自体が「これまでは存在しなかった」というわけではありません。たとえ自分が共感できなかったとしても、誰かの経験や存在を否定するような言動は避けましょう。

「モテたがり/浮気しそう」

パンセクシュアル/パンロマンティックは性的/恋愛的な惹かれの対象を表すラベルであり、恋愛のスタイルやモノガミー(一対一の関係)への誠実さとは関係ありません。モテたいと思っているかどうか、浮気をするかどうかは、セクシュアリティにかかわらず人それぞれです。

異性と付き合っている=異性愛者?

マンガの中には、主人公が「過去に男性と付き合っていたため、異性愛者だと決めつけられてしまった」というエピソードが登場しました。

しかし彼女がパンセクシュアルだったことからもわかるように「誰と付き合っているか(あるいは付き合っていたか)」だけで、その人のセクシュアリティを決めつけることはできませんよね。

たとえば一口に「パンセクシュアル/パンロマンティック」と言っても、

  • 男性と付き合ったことのあるパンセクシュアル/デミロマンティックの女性
  • 男性と付き合っているパンセクシュアル/パンロマンティックの男性
  • ノンバイナリー同士で結婚したパンセクシュアル/パンロマンティックの人
  • だれとも交際したくないAセクシュアル/パンロマンティックの人

など、どのような関係を誰と築いているか/築いていないかは人それぞれです。

また、男性と付き合っていたことがあるレズビアン女性や、女性と婚姻関係にあるゲイ男性がいるように、これはパンセクシュアルに限らず、様々なセクシュアリティについても言えることです。

誰かのアイデンティティを知らないうちに否定してしまわないためにも、過去や現在の関係性だけをもとに、相手のセクシュアリティを決めつけないよう心がけられるといいですね。

さいごに

今回の記事では、パンセクシュアル/パンロマンティックというアイデンティティについて、またセクシュアリティを交際相手の性別で判断してしまうことの問題点について解説しました。

5月24日はパンセクシュアル・パンロマンティック可視化の日。パンセクシュアルおよびパンロマンティックというアイデンティティへの理解を深め、当事者に対する偏見や差別をなくすことを目的とした記念日です。

パレットークでは今日から2週間にわたり、「パンセクシュアル・パンロマンティック可視化の日」に合わせたコンテンツを発信していく予定です。

この機会にパンセクシュアル/パンロマンティックというアイデンティティについて知り、学んでみませんか?