Aセクシュアルってなに?「性的惹かれ」ってどういうこと?
近年、少しずつ知名度が高まってきたと感じるAセクシュアル。ドラマや映画の登場人物としても描かれることが増えてきました。もしかしたら、SNSのアカウントで「Aセクシュアル」「Ace」などと表記している人を見かけたことのある人も、多いかもしれません。
パレットークではAセクシュアルについてマンガで発信することも多いですが、今回はあらためて「Aセクシュアルってどんな性のあり方のこと?」ということについてまとめていきたいと思います。
Aセクシュアルの定義
Aセクシュアルとは誰に対しても性的惹かれを感じない、もしくは、ごく限られた状況でしか持たない人を指す言葉です。「セクシュアル」とついていることからもわかるように、これは性的指向の一種であり、LGBTQ+の一部として認識されています。
もちろん、一言でAセクシュアルといっても、それぞれに小さな差異や個人の認識の違いが存在します。
Aセクシュアルの人の中でも自分の性のあり方をどう捉えているかは異なり、グラデーションのように広がっています。このグラデーション(スペクトラム)上での位置によってさらにさまざまなカテゴリーにわけることができます。
- (狭義の)Aセクシュアル:性的魅力や性的関係を持ちたいという本質的な欲求を経験しない人。
- デミセクシュアル: 感情的な絆が形成された後にのみ、性的惹かれや欲求を経験する人(特定の基準が満たされるまでセックスを控えるという選択とは異なります)。
- グレーセクシュアル:Aセクシュアルとセクシュアル(Aセクシュアルではない人)の中間に位置する人。たとえば、性的惹かれを経験するのはごく稀である人、また特定の状況下でのみ性的惹かれを経験する人、人間関係においての重要度が極めて低い人などが当てはまります。
こうした、様々なAセクシュアルのスペクトラム上のあり方を総称して、Ace(エース)と表現することもあります。
そもそも「性的惹かれ」ってどういうこと?
Aセクシュアルについて考える上で、重要なキーワードになるのが「性的惹かれ(Sexual attraction)」と言う表現です。性的な欲求や恋愛的な感情を持つことが当たり前とされる社会、また性的な関係性が恋愛関係の延長線上にあると捉えられがちな社会では、あらためて「性的惹かれ」について細分化して考える機会は少ないかもしれません。
性的惹かれとは、誰かと性的な関係を持ちたい、あるいは性的な欲求を分かち合いたいと感じることを指します。性的惹かれは、性的魅力と訳されることもあります。そして、Aセクシュアルはこの性的惹かれを他者に対して経験しない性のあり方とされています。
先述の通り、この性的惹かれは恋愛的な惹かれなどと結びつけて捉えられることも多いですが、実際にはそれらを結びつけて捉えない人も多く存在します。そもそも「誰かに惹かれる」という経験には性的な惹かれの他にも様々なあり方があるのです。
たとえば…
- 美的惹かれ(Aesthetic attraction): 相手の外見に惹かれるが、必ずしも恋愛や性的な魅力は感じないこと。
- 恋愛的惹かれ(Romantic attraction): 他の人と恋愛関係になりたい、または他の人に対して強い恋愛感情を抱くこと。
- 官能的惹かれ(Sensual attraction): 性的でない、あるいはセックスにつながらない、愛情に満ちた接触、抱擁、ハグ、キスなどの身体的接触を誰かと持ちたいと思うこと。
この記事を読んでいる人の中で、自身のことをAセクシュアルだと認識していない人であっても、上記のような惹かれの経験のうち
「特定のものを強く感じやすい」
「美的な惹かれは経験したことがない」
など、グラデーションが存在しているのではないでしょうか?
Aセクシュアルに対する誤解や偏見
近年、少しずつ知名度の高まってきたAセクシュアル。ドラマの登場人物などでも描かれることが増えてきました。しかしまだまだ十分に認知されているとは言えない現状の中で、多くの誤解や偏見が根強く残っています。
「Aセクシュアルは恋愛感情を持たない」
Aセクシュアルの人々が恋愛的な魅力を感じない場合もありますが、すべてのAセクシュアルの人々がそうであるわけではありません。恋愛的な感情を持つAセクシュアルの人も多く、そうした人々はロマンティックな関係を築くことを楽しんでいます。恋愛的な惹かれを経験しない人のことを、Aロマンティックと呼びます。
「Aセクシュアルは病気やトラウマの結果である」
Aセクシュアルであることを精神的な問題や過去のトラウマに結びつける偏見も広まっています。しかし、Aセクシュアルは生まれつきの性的指向であり、病気や異常ではありません。
「Aセクシュアルは未熟で、いずれ変わる」
性的な魅力を感じないという状態を「一時的なもの」として軽視する考え方も根強く残っていますが、これも誤りです。Aセクシュアルは、特定の年齢や経験に関連する一過性の現象ではなく、性的指向の1つ。もちろん、すべての人の性のあり方は時と共に変化する可能性はありますが、「今、現時点でその人がどのような性のあり方を自認しているか」を尊重することが必要です。
まとめ
私たちが生きる社会はまだまだ性愛を重要視する風潮が根強く、また性的な惹かれや恋愛的な惹かれを一括りのものとして捉えられる場面も多くあります。そんな中で誤解や偏見の言葉をかけられたり、自身で「自分は何かがおかしいのではないか」と悩んだりしてしまうAセクシュアルの方もまだまだ多く存在します。しかし、性的な惹かれを経験するか/しないかによって、誰かの人間性を評価することはできません。
まだまだ認知度の低いAセクシュアルについて、より多くの人が正しい知識を学ぶことによって、誰もが自分らしく生きられる社会につながっていくのではないでしょうか。
パレットークでは、Aセクシュアルの方の体験談を随時募集しています。こちらのフォームよりお寄せください。
参考
https://www.asexuality.org/?q=general.html
三宅大二郎 、今徳はる香、神林麻衣、中村健著『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシュアルのこと』(明石書店、2024年)