クィアプラトニック・リレーションシップって? – 恋愛や結婚ではない特別な関係について

AロマンティックやAセクシュアルという言葉は、近年少しずつ知られるようになってきました。一方でまだまだ私たちの生きる社会は、恋愛や結婚を重視する価値観が根強い社会でもあります。「恋愛をして結婚し、家族を築くことが人生の当たり前の道」と無意識のうちに捉えている方も多いかもしれません。もちろん、
そうした道を進むなかで幸福を感じる人も多いと思います。一方で、AロマンティックやAセクシュアルのコミュニティを中心に、「恋愛や結婚には当てはまらないが、深い絆を持つ関係がほしい」と考える人々の声も少しずつ聞かれるようになってきました。恋愛的/性的な惹かれとは異なる形の親密なつながりを求める——そのような関係性の1つを「クィアプラトニック・リレーションシップ(Queerplatonic Relationship, QPR)」と呼びます。今回はこのクィアプラトニック・リレーションシップについてご紹介したいと思います。
Aロマンティック・Aセクシュアルとは?
まず、そもそも「クィアプラトニック・リレーションシップ(Queerplatonic Relationship, QPR)」について考えるには、AロマンティックやAセクシュアルについて知る必要があります。
Aロマンティックとは、一般的な恋愛的な惹かれを経験しない、または非常に稀にしか経験しない人々を指します。一方、Aセクシュアルとは、他者に対して性的な惹かれを感じない、または感じることが極めて少ない人々を指します。
より詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
そして、恋愛的・性的な惹かれを経験しないAロマンティックやAセクシュアルの人々も、「特別で親密な関係性を持ちたい」と感じることがあります。しかし冒頭でも述べた通り、多くの人々が親密な関係を築く上で恋愛やセクシュアリティを前提とする社会に生きています。そんな社会の価値観のなかで「自分は特別なパートナーを見つけることができないのではないか」と不安に思ったり悩んだりするAセクシュアル/Aロマンティックの人も多いかもしれません。では、はたして親密な関係は、恋愛・性的な関わりがなければ築くことができないのでしょうか?
恋愛的・性的な関わりを前提とするものとは異なる形の親密なつながりの1つを「クィアプラトニック・リレーションシップ(Queerplatonic Relationship, QPR)」と呼びます。
クィアプラトニック・リレーションシップとは?
クィアプラトニック・リレーションシップ(QPR)は、一般的な友情の枠を超えた、深い絆を伴う関係性を指します。クィアプラトニック・リレーションシップ(QPR)という言葉は、2010年代にAセクシュアル・Aロマンティックのコミュニティ内で生まれました。
クィア(Queer)は、もともと「奇妙な・風変わりな」という意味でLGBTQ+コミュニティに対して侮蔑的な意味を持って使われてきた言葉ですが、LGBTQ+コミュニティのなかから「既存の枠組みに当てはまらないセクシュアリティやジェンダーを持つ人々を指す言葉」として再定義され、現在ではポジティブな意味で使われています。
プラトニック(Platonic)は、ギリシャの哲学者プラトンの名前に由来し、性的な関係を伴わない精神的な絆(※)を指す言葉として使われています。
※「性的な要素を伴わない」という要素が含まれていますが、クィアプラトニックの関係において性的な関係を伴う場合もあります(詳しくは「クィアプラトニックな関係性の例」の章をお読みください)。
これらの言葉を組み合わせた「クィアプラトニック」という言葉は、恋愛関係や友情といった既存の枠組みに当てはまらない関係性を指すために生まレたのです。QPRは、一般的な恋愛関係ではないものの、お互いに強い信頼と支え合いを持つパートナーシップの形態であるとされています。
クィアプラトニックなパートナーシップの例
クィアプラトニック・リレーションシップは、1人ひとりの関係性によって大きく異なります。いくつかの例をご紹介します。
ケース1:共同生活を送るQPRパートナー
恋愛的な関係や性的な関係を持たずに、人生のパートナーとして一緒に暮らす関係。結婚制度を利用することもあれば、ルームメイトのような形を取ることもあります。
ケース2:家族としてのQPR(非恋愛・非性的)
血縁関係はないけれど、お互いを「家族」として認識し法的手続き(養子縁組など)を利用して関係を築くケースもあります。
ケース3:性的な関係を含むQPR
恋愛的な感情は持たないけれど、性的な関係を持つ関係。お互いが心地よい形で親密さを築きながら、恋愛的な期待を持たずにパートナーシップを形成することもあります。
ケース4:子育てを共にするQPR(非恋愛・非性的、または非恋愛・性的)
恋愛関係は持たず、一緒に子どもを育てる関係。同性・異性問わず、QPRパートナーとして共同で親となり、家族を築くケースもあります。
このように、クィアプラトニック・リレーションシップと一言で言っても、そのあり方は非常に多様です。また言葉自体が2010年ごろに生まれた比較的新しいものではありますが、実際には言葉が生まれる以前から多様な形で親密な関係性を築いてきたカップルは多く存在します。
クィアプラトニック・リレーションシップの未来
社会は長いあいだ、恋愛関係や家族関係を「最も重要な人間関係」と見なしてきました。結婚したカップルには法律的にも様々な権利が保障され、尊重されます。そのようは婚姻関係の前段階として、恋愛的な関係や交際が捉えられている場面もまだまだ多いようです。そのような恋愛至上主義の社会では、恋愛的な関わりを持たないことで「寂しい」「不完全」と見なされてしまうことも…。
一方で、既存の恋愛や婚姻関係のみを重視する価値観に対して違和感を持ったり、息苦しさを感じたりする人の声も少しずつ聞かれるようになってきました。クィアプラトニック・リレーションシップという概念は、AロマンティックやAセクシュアルのコミュニティを中心に広がってきましたが、こうした新しい言葉をきっかけにして恋愛関係だけにとらわれない多様な人間関係を可視化していくことができます。
恋愛や結婚が必ずしも人生のゴールではないこと。パートナーシップの数はカップルの数だけ存在しているということ。誰もが自分らしい形でパートナーや関係性を築くことができる社会にしていくためにも、あらためて考えていきたいと思います。
参考:https://www.asexuality.org/?q=general.html
https://www.kent.edu/lgbtq/queerplatonic-relationships?utm_source=chatgpt.com