ヴィクティム・ブレイミングってなに? – 性被害にあったときにかけられがちな言葉の例
【この記事には、性暴力や二次加害に関する言及・表現があります。フラッシュバックなどの心配がある方は、ご自身の状態に注意してお読みください。】
皆さんはヴィクティム・ブレイミングという言葉を知っていますか?
ヴィクティム・ブレイミングとは、性暴力の被害にあってしまった人に対して、被害の責任が被害者にもあるかのような発言をしたり、被害の大きさを矮小化する発言をしたりすることで、被害者をさらに追い詰めてしまうことです。
残念ながら「被害者の尊厳を貶めよう」という動機のヴィクティム・ブレイミングも多いのですが、実は「被害者を励ますつもり」で行われてしまうケースも多くあります。
今回はこのヴィクティム・ブレイミングについて、体験談と一緒に解説していきます。
ヴィクティム・ブレイミングとは
ヴィクティム・ブレイミング(Victim-Blaming、被害者非難)とは、性暴力の被害にあってしまった人に対してその責任が被害者にあるかのような発言や、被害体験自体を信じない/矮小化する発言を指します。
ヴィクティム・ブレイミングは、”二次加害”や”セカンドレイプ”などと呼ばれることもあります。日本語圏では、セカンドレイプの呼び名が一般的かもしれません。ただ、セカンドレイプというと、いわゆる「レイプの被害後のみに起きる問題」のように思う方もいるかもしれませんが、こうした被害はあらゆる性被害の後に起きうるものです。たとえば、痴漢や覗き・露出狂、セクハラなども性被害に含まれます。
ヴィクティム・ブレイミングは、あらゆる人や媒体から受ける可能性があります。たとえば、友人や家族。もしくはメディア等の報道を通して。また残念ながら本来ならば専門的な立場から被害者に寄り添うべき、カウンセラーや支援者、警察からされてしまうケースもあります。
ヴィクティム・ブレイミングを受けると、被害者はさらに追い詰められ傷を深めることになりかねません。特に性的な被害の場合、すでに最初の被害の段階で深く傷つき、また恥や罪の意識を持ってしまっていることが多いですが、ヴィクティム・ブレイミングはそんな被害者をさらに追い詰める行為なのです。
では具体的にどんな発言がヴィクティム・ブレイミングとなるか例を見ていきましょう。
ヴィクティム・ブレイミングの具体例
被害者にも責任があるかのような発言の例
例①「そんな露出の多い服装をしていたからね」
例②「なんでもっと強くNOと言わなかったの?」
例③「一緒にお酒を飲んだってことは、同意したってことでしょ?」
これらは、ヴィクティム・ブレイミングの例として、性的同意の考え方がまだまだ浸透していない社会では非常によく見かける典型的な例です。
これらのおかしい点は、他の犯罪に置き換えて考えるとわかりやすくなります。たとえば道端で強盗にあった人に対して「どうしてそんな高価なものを持ち歩いていたの?」といった発言が被害者に多く投げかけられることは考えづらいですよね。
服装や一緒にお酒を飲むこと、また相手の家に行くことなどは本来、性的同意とはなりません。しかし、こうした考え方はまだまだ根強く残っているため、被害に遭った人自身も、「自分が◯◯だったから」と自分自身を責めてしまうこともよくあります。
被害体験を信じない発言の例
例①「あんなに立派なことをしている人(加害者)がそんなことをするわけがないよ」
例②「枕営業だったんじゃないの?」
例③「あなたみたいな人が被害にあうわけがないよ」
例④「カップル/夫婦間で性暴力なんてありえない」
性被害にあった人は、よくその被害の告発自体を信じてもらえないケースがよくあります。
例①は、性暴力の加害者が社会的に地位のある人物の場合によく起こるものです。加害者がなにかの分野位で大きな功績を持つ人だった場合に、被害を信じてもらえないことがよくあります。しかし、どんなに立派な人物でも性暴力を絶対に起こさないわけはありません。
例②も、非常によく見かけるヴィクティム・ブレイミングです。そもそも性暴力は対等ではない関係性で起こることがとても多い犯罪です。被害者に断りづらい状況を作った上で、その力関係を利用した性行為の強要はすべて性犯罪なのですが、被害者がそれによって利益を得ているかのように捉えられてしまうのは大きな問題です。
例③は、被害者が世間一般でイメージされる性暴力の被害者像から外れる人物だった場合によく起こります。たとえば、トランスジェンダーであったり、男性であったり、高齢であったり…。世間一般でまだまだ「性暴力は若い(シスジェンダーの)女性があうものだ」というイメージが強いため、そこから外れる人の被害はなかなか信じてもらえず、告発自体しづらい状況を作ってしまいます。しかし、どんなジェンダー/年齢/その他あらゆる社会的な状況の人でも性被害にあってしまう可能性はあり、被害の深刻さは属性とまったく関係のないことです。
例④も性暴力に対するよくある誤解から生まれるものですが、カップルや夫婦の間でも性暴力は起こりえます。「パートナーが避妊に協力してくれない」「望まないプレイを強要される」「断ると不機嫌になる」というものも性暴力となります。そして、これは異性カップルだけの問題ではなく、同性カップルにも起こりうる問題です。
被害体験を矮小化する発言の例
例①「(男性の被害者に対して)むしろラッキーだったじゃん!」
例②「気にしすぎだよ/気のせいだよ」
例③「あなたは妊娠の可能性がないからまだマシだよね」
例①は「被害体験を信じてもらえない」例とも共通するもので、「性被害は若い(シスジェンダーの)女性がされるもの」という思い込みがあります。高齢の被害者に対して「相手にしてもらえてよかったね」というような発言も同様です。
例②や例③に関しても同様に、本来、被害の重さや傷つきを第三者が勝手に決め付けることはできません。しかし、今の社会では残念ながらそのような決め付けをされてしまう被害者が多くいます。
たしかに妊娠の可能性がある人が挿入を伴う性被害を受けてしまった場合、できるだけ早く緊急避妊薬を服用するなど対処が必要となります。妊娠のリスクは被害者をさらに追い詰める要因となりえます。
しかし性被害は、妊娠の可能性に関わらず被害者を深く傷つけるものです。妊娠可能性については、しばしトランスジェンダー女性を排除しようという意図のもとに言及されることがありますが、もしも妊娠の可能性によって被害の重みが変わるとしたら、「初潮をむかえる前の子どもの性被害は、そうではない人の性被害に比べて軽い」ということにもなってしまいます。しかし、そんなことはないですよね?
どんな人であっても性暴力の被害をきちんと受けとめられ、ケアされる社会にしていくためには、第三者による性被害の大きさの決め付けはなくしていかなければいけません。
被害者を励ますつもりでしてしまう発言の例
そして、今回のマンガのエピソードのように直接的ではない/フォローするつもりだったかもしれないけれど、結果的に被害者を追い詰めてしまう例もたくさんあります。
たとえば性被害を受けてしまった人に対して、次のような言葉をかけてしまったことはありませんか?もしくはかけられてしまったことはありませんか?
例①「あなたは魅力的だからね/モテるってことだね」
例②「美人だと嫌な目に遭うよね」
例③「(挿入を伴う)レイプされなくてよかったね/その程度でよかったね」
①や②は間接的に「性被害にあったのはあなたが◯◯だったから」と責任を被害者に押しつける発言の1つの形だと言えます。性被害は「モテる」とはまったく関係のないことですし、被害者の見た目がどうであろうと、性暴力は加害した側に責任があります。
そして③の例は、被害体験を第三者が勝手に矮小化する1つの形になります。直接の接触がなかったとしても、露出狂や覗きなどは心に傷を残す、れっきとした性犯罪です。
たとえ被害者を励ますつもりであったとしても、これらの発言は控えた方がよいのです。
まとめ
以上、性暴力被害者がかけられがちなヴィクティム・ブレイミングについて、例を交え解説してきました。
最初の性暴力によって被害者はすでに深く傷ついている場合が多いですが、ヴィクティム・ブレイミングはさらに被害者の傷を深めてしまいます。さらにヴィクティム・ブレイミングは、そもそも声を上げられない被害者を増やし、性加害を温存することに繋がります。
たとえ励ますつもりであっても、さらに被害者を傷つけ、追い詰めてしまうことのないように、社会のヴィクティム・ブレイミングに対する認識を高めていく必要があるのではないでしょうか。