アウティングってなに? – カミングアウトされたときに気を付けたいこと
みなさん、アウティングという言葉を聞いたことがありますか?
アウティングとは、誰かのセクシュアリティを勝手に第三者に暴露してしまうことを言います。
性の多様性やLGBTQ+についての認知度が高まってきている今日、日常会話の中で、誰かのセクシュアリティについて話す機会も多くなっていると思います。
「あの人ゲイらしいよ〜」
「Aさんってもともと女性だったって知ってた?」
一方で、このようにセクシュアリティについて軽い気持ちで話したことが、実はその人を深く傷付けてしまうかもしれない危険性については、まだまだ十分には知られていないかもしれません。
今回は、このアウティングの意味と危険性についてマンガと併せて解説していきます。
アウティングとは?どうしてアウティングしてはだめなの?
アウティング(Outing)とは、誰かのセクシュアリティを本人の同意なく第三者に勝手に暴露することを指します。
このアウティングという言葉が世間に知られるきっかけとなった事件があります。それは「一橋アウティング事件」。2015年、一橋大学の学生が友人にゲイであることを暴露されたあと、転落死をしてしまったという痛ましい出来事がありました。
- アウティングをきっかけとして、自死には至らなかったとしても職場でハラスメントを受けて転職を余儀なくされてしまった
- アウティングによって精神的に追い詰められ、鬱になってしまった
といったケースはこの社会で非常に多く起きてしまっています。アウティングは、それだけ当事者を深く傷つける行為なのです。
私たちの社会は少しずつ性の多様性の認知度が高まってきているとはいえ、まだまだ差別や偏見が根強く存在します。残念ながら、自分の性のあり方を知られるのは、当事者にとってまだまだ大きなリスクとなってしまう現状も残っています。
そのような社会で、勝手に第三者に性のあり方を暴露するアウティングは、避けなければいけない行動の1つ。
実際、2020年6月に始まったパワハラ防止法でアウティングもパワハラに含まれることが明記されています。2022年4月からは、中小企業にも防止措置が義務付けられました。
カミングアウトとの違いは?
カミングアウト(Coming Out)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。カミングアウトとは、LGBTQ+当事者が自分のセクシュアリティを誰かに告白するという意味です。
これは、LGBTQ+当事者がクローゼットのなかに隠れている状態(=セクシュアリティについて公表していない)から外に出る(coming out of the closet)という表現から来た言葉です。
カミングアウトは、LGBTQ+当事者が自分らしく生活を送るためにはとても重要な意味を持ちます。残念ながら誰もがカミングアウトできる状況ではないのですが、近年は少しずつカミングアウトする当事者も増えてきています。
一方アウティングは先述のとおり、誰かのセクシュアリティを本人の同意なく第三者に勝手に暴露することを指します。
「セクシュアリティを誰かに話す」という意味では、カミングアウトもアウティングも似ているように思えますが、カミングアウトはあくまで当事者自身が自らの選択によって行なうこと。誰かに勝手に暴露されてしまうアウティングとは大きく異なります。
今回のマンガで言えば、ゲイの友人が主人公にゲイであることを打ち明けることはカミングアウトにあたります。そして、もし主人公がそれを誰かに勝手に暴露してしまったら、それはアウティングとなります。
- 自分自身の意思によって自分のセクシュアリティについて話すこと=カミングアウト
- 自分以外の人のセクシュアリティについてその人の同意なく勝手に話すこと=アウティング
アウティングとカミングアウトには大きな違いがあるということを、ぜひ忘れないでください。
善意のアウティングについて
今回のマンガでは、友人にゲイであることをカミングアウトされた人が悪意ではなく善意でまわりに伝えかけてしまう内容でしたが、アウティングは「善意か悪意か、意識的か無意識か」に関係なく私たちがもっとも避けるべき行動の1つであると考えられます。
「自分はLGBTQ+に偏見を持っていないから、誰に言っても構わないでしょ?」と考えている人もいるかもしれませんが、先述のとおり現実にはまだまだLGBTQ+に対する社会の偏見は多く、セクシュアリティを理由としたいじめ、不当解雇なども起きています。
当事者にとっては、したいと思ってもカミングアウトはまだまだ難しく、リスクを伴うもの。そのような内容を第三者が勝手に暴露することは、とても暴力的な行為となりえます。
LGBTQ+についての認知度とあわせて、「アウティング=誰かの命を奪う可能性のある危険な行為」という事実も、広く知られる必要があります。
もしも「相手のために誰かに話す必要がある」と思われる場合も、勝手に話すのではなく本人の同意を取るようにしましょう。
セクシュアリティだけじゃないアウティングの危険性
もともとセクシュアリティについて使われる言葉だったアウティングですが、最近ではセクシュアリティに限らず疾患や障害、出自、職業などに関しても使われるようになってきました。
私たちの生きる社会には、まだまだ偏見や差別を受けてしまう属性が、セクシュアリティの他にも多くあります。
たとえば、はたからは見えづらい障害の1つ発達障害や偏見の残る精神疾患、性感染症、職業差別を受けやすいセックスワーク、民族的な出自なども、アウティングによって当事者が深く傷つくケースが多くあります。
将来的に「属性によって誰も差別されない社会」が実現したとしたら、もしかしたらアウティングは危険な行為ではなくなるのかもしれません。しかし、残念ながらまだまだ差別や偏見の残る社会では、セクシュアリティに限らずアウティングは防いでいかなければいけません。
カミングアウトされたらどうすればいいの?
あなたが誰かにセクシュアリティをカミングアウトされたら、また偶然誰かのセクシュアリティを知ることになったら、まずは第三者に勝手に口外することを絶対にやめましょう。
その上でもし、その人が何かサポートを必要としている様子であるならば、まずはその人と話してみてどんなことができるのか一緒に考えていけるといいですね。
人によっては、カミングアウトする相手やコミュニティを選んでいる場合もあります。
- 職場ではカミングアウトしているけど友人には話していない
- 家族以外にはカミングアウトしている
- 親しい限られた友人グループにのみカミングアウトしている
などなど、その範囲の選択は人それぞれです。誰かが、あるコミュニティでオープンにしているように見えても、実は関わる人すべてにカミングアウトしているとは限らないのです。
もし不安であれば、相手が誰にカミングアウトをしているのか、もしくはしたくないのかということを聞いてみるのもいいかもしれません。
また自分がアウティングをしなくても、誰かが第三者のセクシュアリティを暴露してくる場合もあると思います。そんなときも、その話題をそれ以上他の誰かに広めることはせず、できることならばアウティングをしてしまった人に「アウティングはするべきじゃない」と伝えられるといいですね。
まとめ
以上、アウティングとその危険性について解説してきました。誰かを深く傷付け、追い詰め、命を奪ってしまう可能性のあるアウティングについてもっと認知度が高まり、LGBTQ+当事者が安心して生活できる社会にしていけるといいのではないでしょうか。
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松岡宗嗣『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』2021年、柏書房