01 地方の女性部を変えた母の話。真ん中にメガネをつけた短髪の50代くらいの女性のイラスト。その周りには様々な高齢女性がいる。
02 家庭の事情で都会から地方に移り住んだ母は、地域の公民館にある「女性部」に入ることになります。この「女性部」はもともと「女性の社会的地位向上」を目指して作られたものでしたが、そこで実際に行われていたのは、「会議の日の食事準備」「屋外イベントでの食事提供」「飲み会での配膳」などなど…。その光景を見た母は、本来の目的である「女性の社会的地位向上」を目指し、「女性部」を立て直すことを決意します。
03 これは現在、地方に暮らしている私の母が、地域の「女性部」を変えた話。「私」と母が話しているイラスト。私の母は東京で約30年暮らし、10年ほど前に家庭の事情で地方に移り住んだ。 私「これは私が帰省したときに母から聞いた話です」
04 母が住む地域の公民館には「女性部」という女性だけで構成されたグループがあり、母もそこに入ることになった。 母「『女性と高齢者の活躍の場』を作りたかったらしいんだよね。」私「へ〜」そもそも「女性の社会的地位向上」を目的として作られたらしい「女性部」…。 でも実際には…。女性部の人「女性部の仕事はこっちだから」母、疑問に思いつつも「はーい」
06 母、ショックを受けながら「こ、これが「女性部」の仕事…?」母「『女性の社会的地位向上』のつもりが、だんだん『お手伝い』のポジションになっていったっぽいんだよね〜」私「おげげ…」母の住む地域はいまだに昔からの男尊女卑が強く残っており…。高齢男性A「女性が意見を口にするなんてはしたない」高齢男性B「女性は男性の手伝いをするものだ」母「 この『手伝い』がそのまま『ご飯作り』になっていったんだろうね」
07 しかも「女性部」の構成員には高齢者が多く…。手伝いが物理的に困難、どんどん人が減る、別の地域の女性部も解散に…という負のループの図。私「負の連鎖だったんだね…」母「このままだと、うちの『女性部』も…って思ったよね。高齢化もあって、『男性の手伝い』ばっかりの『女性部』じゃ、人が減って解散するのもわかるけどね…。う〜んどうしたら…」
08 母「でも私は『女性部』をなくすんじゃなくて、『本来の目的通り、女性たちが主体的に活躍できる場所にしていこう』って決めた」
09 母「それで、皆が集まったときにはっきり提案して、「女性部」の活動を変えようと思ったの」当時の母「あの〜、すみません。 ここ、ちょっと気になってたんですけど…」私「具体的になにをしたの?」
10 母はまず、「女性部」や公民館の人たちの意識を変えるところから始めた。 母「やってみたいこととかありますか?」女性部の人A「そうね〜」女性部の人B「ふむ…」母「次に、男性たちに『食事の準備は自分たちで用意したり買ったりしましょう』って言ったね。 最初は反対する男性も多かったけど、今は普通に回ってるし」
11 母「その代わりに増やしたのが、女性たちの勉強会や研修会。ゴキブリ団子作りとか、廃油石鹸作りとか、高齢者もいるからいきいき体操とか、認知症の勉強会とか…」女性部内での様々なイベントに参加する高齢女性たちのイラスト。母「農業に携わってる人も多いから、最近は専門の人を呼んで、食品ロスとか電気エネルギーの話とか…。コロナ前はリサイクル工場の見学もしたかな」私「環境のことまで…!」
12 母「自主的にいろんな情報を得たり、活動に参加したりって大事だけど、地方では難しいじゃん?高齢だと、ネットを使えない人もいるしさ。ここに数年暮らして感じたけど…家にしか居場所がなくて、言われたことだけをやる生活で、外との関わりや情報を得られない高齢女性って結構いるんだよね」夫の言うことだけを聞いて、どんどん閉塞的になっていく高齢女性のイラスト。

マンガ「地方の女性部を変えた母」から考える、地域社会のジェンダー平等

自治会の運営や地域の催し、防災訓練などで、男性は前に立ち、女性はサポートにまわる。

そんな光景を目にしたことはありませんか?

いまだに、意思決定をする役割が男性中心の地域が多く残り、女性部や婦人会は「縁の下の力持ち」としてケアの役割を担わされやすい状況にあります。

今回の記事では、そんな慣習にモヤモヤしながらも

「女性部自体をなくしてしまうより、変えていこう」

と立ち上がった、ある女性のストーリーを紹介します。

※Instagramに掲載した際、マンガ内のセリフに「SDGsは環境問題のみを扱い、ジェンダー平等は含まれない」と受け取れる表現がありました。実際には、ジェンダー平等はSDGsの重要な柱の一つであり、目標5にも明記されています。誤解を招く表現となったことをお詫びし、今後はより正確な表現に努めてまいります。

まだまだ男性中心的な自治会のあり方

今回のエピソードで描かれるのは、地方への引っ越しをきっかけにその地域の「女性部」に参加することとなった、とある女性です。

もともとその女性部は、女性の社会参加を促すために設立されたものでした。しかし蓋を開けてみると、女性たちに任されていたのは…

「会議の日の食事準備」
「屋外イベントでの炊き出し」
「飲み会での配膳」

など、裏方の仕事ばかり。

このように女性に「サポート役」を任せる構造は、この体験談に限らず各地で起きていることです。

内閣府の2021年調査によると、全国の自治会長に占める女性の割合はわずか6.3%。また、地域活動におけるジェンダー平等について尋ねた調査では、回答者の47%が「男性の方が優遇されている」と答え、「平等」と答えた人の割合(40%)を上回ったといいます。

こうした偏りの原因には、「男性を基準」とした組織の仕組みや、女性の主体性を軽視するような価値観が挙げられます。

たとえば…

  • 会合の時間が夕方〜夜に設定されていて、家庭の夕食準備と重なってしまう
  • 「役員の妻」や「代理」としての参加が前提とされ、意見が尊重されにくい
  • お茶くみや配膳など、「女性らしい」とされる役割を当然のように任される
  • 会議で発言しても、女性であることを理由に煙たがられる

などなど…

このように、地域活動そのものが「男性が主役で、女性は補助」という考えに基づいて運営されていると、多くの女性が男性と対等に参加しづらい状況に置かれてしまうのです。

「女性はケア役割に向いている」って本当?

たしかに、今の中高年世代では家事や介護などのケア役割を女性が担っている家庭が多いことは事実です。

たとえば内閣府の調査(2016年)によれば、65歳以上の女性が家事・育児・介護に費やす時間は1日あたり3時間39分。その一方で、男性はわずか約65分にとどまっています。

しかしこれは「女性だから家事などに向いている」からなのでしょうか?

当然、家事や細かな作業が得意な男性もたくさんいますし、料理や子どもと関わることが苦手な女性もいますよね。つまり、性のあり方と得意・不得意が結びついているわけではなく、「この性別だからこうすべき」という考え方こそがこの役割分担のあり方の背景にあるのです。女性がケアの役割を担わされやすいのには、性別によって役割が固定されてきたという背景があるのです。

そんな根強い風潮に対して、もともと「女性部」や「婦人会」は、地域の意思決定の場が男性ばかりであることに対し、女性の声を反映させるための仕組みとして設けられた側面があったはず…。しかし、運営の仕組みそのものが男性中心のままだと、女性たちには家の中と同じようにケアやサポートの役割ばかりが押しつけられてしまうのです。

一人ひとりが「やりたい」形を大切に

女性部の実態を前に「このままではいけない」と感じた主人公は、女性部の設立当初の目的である「女性の社会的地位向上」に立ち返ることを決意します。

マンガの中でも描かれている通り、家事や育児、介護に追われ、社会参加の機会を得られない高齢女性は少なくありません。

たとえば、これまで男性の問題ととらえられがちだった「ひきこもり」についての最近の調査からは、40〜64歳のひきこもりに占める女性の割合が52.3%であることが明らかになり、注目を集めました。

この調査結果は、「女性だから」という理由で家のことを任されてきた結果、社会とのつながりを持ちにくくなっている女性たちの姿を浮き彫りにしています。だからこそ、地域のつながりの場となる女性部や婦人会のような組織は、本来とても大切な存在です。

でも、そこにもまだ「女性だから〇〇をすべき」という思い込みが残っているとしたら…?

性別にまつわる「こうあるべき」を前提に役割を決めるのではなく、一人ひとりが「やりたい」と思えることをやれる場所であることが大切なのではないでしょうか。

マンガの中で主人公は、女性部の仲間たちに「なにがしたいか」を丁寧に聞き取り、活動のあり方を少しずつ見直していきます。

炊き出しや配膳など、“女性部だからやるべき”とされてきた仕事は性別にかかわらず分担するよう提案し、その代わりに始めたのは、

  • ゴキブリ団子や廃油石けん作り
  • 認知症やエネルギー問題についての勉強会
  • リサイクル工場の見学
  • 地域の食品ロスに関する講座

など、高齢の女性でも無理なく参加でき、学びと交流が得られる活動でした。

「こうあるべき」ではなく、「こうしたい」に耳を傾けること。そして、それぞれが自分の意思で地域と関われる環境をととのえること。

そうした変化こそが、本当の意味での“女性の社会参加”に近づく一歩なのではないでしょうか。

さいごに

地域の中での「女性部」や「婦人会」は、長い歴史の中で女性たちの居場所や学びの場として大切な役割を果たしてきました。

しかしその一方で、性別に基づいた役割の固定や男性中心の組織運営により、女性の意見が届きにくい状況も依然として続いています。

大切なのは「今までこうだったから」と受け入れるのではなく、一人ひとりが自分らしく参加できる場をつくること。

そして、性別にまつわる「こうあるべき」にとらわれず、誰もが主体的に地域づくりに関われる社会を目指すことではないでしょうか。

今回紹介したエピソードのように、少しずつでも声を上げ、行動を起こす人が増えていくことで、地方自治の在り方も変わっていくはずです。

皆さんの身近な場所でも、「こうしたい」という思いを大切に、変化の一歩を踏み出してみませんか?

参考

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo03-03.html
https://survey.gov-online.go.jp/women_empowerment/202502/r06/r06-danjo/#sub8
https://www.khj-h.com/news/statement/8862/