あらためて知りたい「性暴力」の定義と日本の法律

皆さんは、「性暴力」と聞いてどのような行為を想像するでしょうか?
ニュースで報道されるような重大な事件を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実は性暴力とは特定の犯罪行為だけを指すものではありません。本人の同意のない性的な行為・行動は、すべて性暴力にあたります。
パレットークではこれまでもセクシュアルハラスメントや二次加害について発信してきましたが、今回はあらためて「性暴力とは何か?」という定義をはじめ、法律での位置づけ、声があげにくい構造的な背景、そして万が一の際の相談先についてまとめていきたいと思います。
性暴力ってなに?
性暴力とは、同意のない、あるいは以下のいずれか1つ以上を伴うあらゆる種類の性的行為や行動(オンライン上での行為を含む)を指す言葉。
- 圧力
- 支配
- いじめ
- 威嚇
- 脅迫
- 騙し
- 強制
同意なしに行われたあらゆる種類の性的な行為や行動は、性暴力にあたるという点がポイントです。
「暴力」という言葉がつくと「身体的な力づくの行為」をイメージしがちですが、性暴力は身体的な強要によるものだけではありません。
社会的・経済的な立場や力関係を利用した強要、言葉や視線によるセクシュアルハラスメント、デジタル空間での性的な侵害なども、すべて性暴力に含まれます。
また、「相手が嫌がっていなさそうだった」「明確に拒否しなかった」からといって、性暴力にならないわけではありません。
双方が行為のリスクを理解したうえで自発的に合意している状態(性的同意)でない限り、あらゆる性的な接触は相手の尊厳を侵害する行為になり得ます。
ちなみに現在の日本の法律に定められている「性犯罪」と、「性暴力」とは必ずしも同じではありません。実際のところ、今の法律ではカバーしきれないさまざまな性暴力が起きているからです。
とはいえ、日本でどんな行為が犯罪になるのかも知っておきたいところ。とくに近年では、性犯罪に関する規定そのものの変化や、デジタル性暴力の広がりに対処するために新設されたものなどもあります。次のパートでくわしくチェックしていきましょう。
日本の法律における性暴力の扱いの変化
2023年7月に施行された改正刑法によって、日本の性犯罪に関するルールは、明治時代に定められて以来の歴史的な変化を迎えました。
刑法の性犯罪規定
この改正における大きなポイントのひとつが、従来の「強制性交等罪」から「不同意性交等罪」への変更です。
2017年に施行された「強制性交等罪」では、犯罪として認められるために「暴行や脅迫があったこと」が主な条件とされていました。
しかし実際の性暴力被害では、あまりの恐怖から体がすくんで動けなくなる「フリーズ(凍りつき)」が起きたり、立場や関係性の上下関係から拒否できなかったりするケースが数多く存在します。
そのため、「暴行・脅迫がなくても、明確な自発的合意(性的同意)がない性行為はすべて侵害である」という国際的な人権基準に合わせる形で、法律が新しくなりました。
【対象となる手段】
改正前「強制性交等罪」
➡️「暴行」または「脅迫」で相手を無理やり従わせた場合
改正後「不同意性交等罪」
➡️「暴行」や「脅迫」だけでなく、「アルコールや薬物の摂取」「意識不明瞭」「心身の障害」「経済的・社会的地位の利用」「虐待」「恐怖・驚愕」「拒絶する隙を与えない」など、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせた場合
あわせて、どんな行為が処罰対象になるかや、年齢の基準についても重要な見直しが行われました。
行為の範囲については、「男性器以外の挿入」も処罰対象に加わったことで、「性別に関係なく加害者・被害者になりうる」ということや、「男性器の挿入を伴わなくても同意のない性的な行為は性暴力である」ということが、きちんと前提に組み込まれたと言えます。
加えて、自分の意思で性行為に合意できる能力があるとみなされる「性的同意年齢」も、長年据え置かれていた13歳から16歳へと引き上げられました。
また、2023年の改正では新たに「性的グルーミング*罪(面会要求等罪)」も新設されました。16歳未満の子どもに対し、性的な目的で会うことを要求したり、言葉巧みに性的な関係へ誘い込んだりする行為そのものを早い段階で取り締まることで、重大な性被害を未然に防ぐことを目指しています。
※性的グルーミングとは?:大人が言葉巧みに信頼関係を築いて子どもを手なずけ、性的な目的で自分に懐かせる心理的な誘導のこと。
これらは日本の性犯罪規定において、非常に大きな変化でした。
新しい性犯罪を取り締まるための特別法
刑法だけでなく、個別の特別法によってもさまざまな形の性暴力が規制されています。
たとえば…
リベンジポルノ防止法(正式名称:私事性的画像被害防止法)
元交際相手やパートナーなどが、交際中に撮影したプライベートな性的写真を、別れた後や腹いせにネット上に拡散したり第三者に渡したりする行為を禁止し、罰則を科す法律。
撮影罪(正式名称:性的姿態撮影処罰法)
2023年に新設された比較的新しい法律。これまで都道府県の迷惑防止条例などでバラバラに処罰されていた盗撮行為に対し、国全体の法律として統一的な罰則を定めた。本人の同意なく胸や下着などを撮影する行為はもちろん、撮影した動画や写真をSNSで公開・共有する行為、さらには拡散目的で持っていたり受け取ったりする行為まで、幅広く処罰対象とされている。
予防・安全確保のための法律
事件が起きてからの処罰だけでなく、そもそも性暴力が起きない環境づくりや、被害者の安全を確保するための法整備も進められています。
ストーカー行為等規制法
2000年に施行されたストーカー行為等規制法(正式名称:ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、特定の人への恋愛感情や好意、それが思い通りにならなかったことへの腹立ちから、つきまとい、押しかけ、無言電話、連続したSNS送信、性的嫌がらせになる画像や文章の送信などを行う行為(ストーカー行為)を規制する法律です。
DV防止法
2001年に施行されたDV防止法(正式名称:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)は、配偶者や事実婚関係にあるパートナーからの暴力を防ぎ、被害者を保護するための法律です。
2023年の改正により、殴る・蹴るといった身体的暴力だけでなく、言葉や態度による「精神的暴力」、そして避妊に応じない・性行為を強制するといった「性的DV(性的暴力)」に対しても、裁判所から接近禁止などの保護命令が出せるよう適用範囲が大きく広がりました。
POINT
性暴力は「暗い夜道で見知らぬ不審者に襲われる」ケースよりも、パートナー、友人、職場の人など「身近な顔見知り」から行われるケースが多いことがわかっています。
「付き合っているから」「夫婦だから」といった理由で性行為を受け入れる義務はありません。どんなに親しい間柄であっても、相手の意に反する性的な強要は明確な性的DV・性暴力です。
日本版DBS
通称「日本版DBS」とも呼ばれる、こども性暴力防止法(正式名称:学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)も、性暴力被害を未然に防ぐために作られた法律です。
2026年12月までに施行されるこの法律は、学校や認定こども園などで子どもへの性暴力が起きないよう、体制を整えることを事業者に義務付けるものです。
教員や保育士など子どもと接する仕事に採用する際、過去に性犯罪歴がないかを事業者が確認するよう求める仕組みになっています。
ただ、性犯罪歴のある人が立場を利用して再び子どもに近づくのを防ぐ効果が期待される一方で、
- 対象となる性犯罪の範囲は妥当か
- 人手不足のなかで、現実的に配置転換ができるのか
- 戸籍など高度な個人情報の取り扱いが各現場で適切に行えるのか
など、制度そのものやその運用方法について、懸念の声もあがっています。
現行法で対処しきれていない性暴力
このように法改正が進む一方で、現行の法律が社会で起きているすべての性暴力をカバーできているわけではありません。
たとえば加害者側が「相手も同意していると思い込んでいた」と主張した場合、お互いの認識のズレや証拠が不十分であることを理由に、過失として処理されたり、罪に問うのが難しくなったりする法的・証明上の課題が存在します。
また、テクノロジーの発達にともない、これまでの法律では取り締まりにくい新たな形態の「デジタル性暴力」も登場しています。
たとえば…
ディープフェイクポルノ
AI技術などを使って、特定の人の顔写真を本人の許可なくアダルト画像や動画と合成・生成する行為
セクストーション
「セックス(性的なもの)」と「エキソーション(強迫・ゆすり)」を組み合わせた言葉。プライベートな性的画像や動画を奪い取ったり手に入れたりした上で、「ネットにバラまくぞ」と脅して金銭やさらなる性的写真を要求する脅迫行為
このように絶えず生まれ続ける新しい形の性犯罪に対応するためには、今後も時代の変化に合わせた法的な検討やルールの見直しを続けていく必要があります。
被害を訴えにくくする構造的問題
性暴力を取り締まる法律の整備が進んでいても、そもそも被害に遭ったとき、被害者が「声をあげる」ことや、「自分が被害に遭った」と認識すること自体をきわめて難しくしている社会の構造があります。以下では、その主な要因を見ていきましょう。
密室性
性暴力は、人目につかない密室や、加害者の自宅、鍵のかかる空間などで行われることが多く、第三者の目撃証拠が残りにくい特徴があります。
性的な事柄をタブー視する風潮
社会全体に「性的な話題は恥ずかしいもの、隠すべきもの」というタブー視する風潮が根強く残っているため、被害に遭っても周囲に相談できず、一人で抱え込んでしまう人が少なくありません。
ヴィクティム・ブレイミング
被害者側に対して「落ち度があったのではないか」と責任をなすりつけるバッシングのことを「ヴィクティム・ブレイミング(被害者叩き)」と呼びます。こうした心ない言葉や周囲の視線が被害者をさらに深く傷つけ(二次被害)、声をあげることをためらわせる原因になっています。
【ヴィクティム・ブレイミングの具体例】
被害者にも責任があるかのような発言
「そんな服装をしていたから」「夜遅くに一人で出歩いていたから」「お酒を飲んでいたから」など、加害者ではなく被害者の行動を責める言動。被害があったことを信じない発言
「大げさに言っているだけでは?」「嘘をついているのではないか」と被害の事実そのものを疑う言動。「枕営業」「ハニトラ」ミソジニー発言
権力構造の中で起きた性被害に対し、「自ら取り入ろうとしたのではないか」「罠に嵌めたのではないか」と偏見や女性蔑視(ミソジニー)に基づいたレッテルを貼る行為。被害体験を矮小化する発言
被害を告発した人に対して「目立ちたいだけ(売名行為)」と攻撃したり、男性が被害に遭った際に「男なら喜ぶべき」「大したことない」と笑い話にしたりして、被害の深刻さを軽視する言動。励ますつもりで傷つける発言
「早く忘れた方がいいよ」「良い経験だと思って前に進もう」といった、一見悪気はないものの、被害者の苦痛や回復のプロセスを無視して処理させようとする圧迫感を与える言動。
この例にもあるように、とくに近年は日本でも男性の性被害について大きく注目が集まるようになってきた一方で、男性が性被害を受けたときに声をあげづらい風潮は、今も根強く残っています。
内閣府「男女間における暴力に関する調査」(令和2年)によると、性暴力被害について女性の6割程度、男性の7割程度が誰にも相談していません。
性のあり方をはじめとするさまざまな属性にかかわらず、性被害を訴えたときに、被害の事実を疑われたり、誹謗中傷の的になるようなことがない社会にしていくことがとても重要です。
性暴力にあったとき
もしあなたや身近な人が性暴力被害に遭ったときは、決して一人で抱え込まず、専門の相談機関を頼ってください。相談内容や個人情報が外に漏れることは絶対にありません。また、話したくないことを無理に話す必要もありません。
もしも性暴力の被害にあってしまったら
①まずは身の安全の確保
その場から逃げる、警察に電話するなど、まずは身の安全を最優先にしてください。
②証拠を残す
シャワーを浴びたり、着ていた服を捨ててしまったりすると、重要な証拠が失われる可能性があります。警察に届け出るかを決めていない場合でも、なるべく証拠を保全するようにしてください。
※もし捨ててしまったとしてもご自身を責めないでください。ワンストップ支援センターや警察に相談することで、「次にとるべき行動」についてアドバイスしてもらうこともできます。
③ワンストップ支援センターに電話
電話で状況を伝えると、「次にとるべき行動」を教えてもらえます。緊急避妊薬が必要なケースでは、公費による助成を受けられる場合があります。また、医療的支援や心理的支援、警察への届け出のサポートなども受けられます。
#8891(はやくワンストップ) で最寄りのセンターにつながります。
全国共通の相談窓口
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
#8891(はやくワンストップ)
※最寄りの都道府県のワンストップ支援センターにつながります。24時間365日対応・通話料無料。産婦人科医療、カウンセリング、法律相談などの支援をワンストップで受けることができます。- 性暴力被害SNS相談「Cure Time(キュアタイム)」
ウェブサイト:https://curetime.jp/
※電話での相談が難しい場合、チャット形式(SNS・Web)で相談が可能です。毎日 17:00〜21:00。- 警察の性犯罪被害相談電話
#8103(ハートさん)
※最寄りの警察本部の性犯罪被害相談窓口につながります。24時間対応。- 男性のための性暴力被害ホットライン
0120-213-533(毎週土曜日 19:00〜21:00)- 男の子と保護者のための性暴力被害ホットライン
0120-210-109(毎週金・土曜日 16:00〜21:00)
まとめ
今回は、「性暴力とは何か?」という定義をはじめ、近年の法改正や法律の課題、そして声をあげにくくさせている社会的な構造について整理してきました。
法律の面では「性的同意」を軸にした法改正など、被害者に寄り添う変化が少しずつ進んでいます。しかし、最新テクノロジーを使った新たな性被害や、社会に残るヴィクティム・ブレイミングの風潮など、解決すべき課題はまだ多く残されています。
性暴力は、特別な誰かにだけ起きる事件ではなく、私たちの身近に存在する人権侵害です。「嫌と言わなかったから同意」とするのではなく、「お互いの意思と尊厳を尊重し合う確かなコミュニケーション(性的同意)」を当たり前にしていくこと。そして、どんな性のあり方や属性であっても、被害に遭った人が責められることなく安心して声をあげられる環境をつくっていくことが何より大切です。
性暴力というテーマに向き合うことは決して簡単なことではありませんが、一人ひとりが正しく知り、社会の「当たり前」を問い直していくことが、誰もが安心して暮らせる未来につながる第一歩になるのではないでしょうか。
参考
https://rapecrisis.org.uk/get-informed/about-sexual-violence/what-is-sexual-violence