性についてオープンすぎる母の話。黒髪ショートヘアの母親のキラキラした表情、それにあてられて眩しそうにしている娘のミカの絵。
初めて彼氏を家に招いた大学生のミカ。すると元養護教諭(保健室の先生)の母が突然「避妊はちゃんとしなさいね!」と話し始め、気まずい雰囲気に...!性の話題を隠さずに話すことの大切さはもちろん、親密な関係性でも、お互いのペーストプライバシーを尊重することの大切さを再確認できるエピソードです。
主人公のミカモノローグ「私は現在大学2年生で、付き合って1年になる彼氏がいます。これは、この間彼を初めて私の家に招いたときのこと。私の両親との初めての顔合わせは、和気あいあいと進むはずだったのですが…。美味しそうな夕ご飯がたくさん並ぶ食卓。ミカ「作り過ぎじゃない?」母「ちょっと張り切りすぎちゃって〜」
母「ミカとシュンくんのお付き合いは、ふたりで決めることだから、ママたち絶対に口出ししない!…ただ一つだけ、ふたりとも、避妊はちゃんとしなさいね!」と元気よく伝える。
スプーンを持つ手が止まり、顔がカーッと赤くなるミカ。隣で咳き込むシュン。「ミ、ミカが作ったサラダは美味しいな〜」と聞こえていないふりをする父。ミカの心の声「あ〜〜もう!ママ!」
ミカモノローグ「私の母は元養護教諭(保健室の先生)で、性教育には人一倍熱心。その影響で、私の家族は他の家庭と比べると、かなりオープンに性や身体のことについて話すほうだと思います。月経やPMSのしんどさの話を家族内で共有したり…ドラマを見ながら性的同意の話をしたり…突然の壁ドンシーンに「同意を取ってない状態でこういうことしちゃダメよ!」とミカに伝える母、へ〜と聞いているミカ。もちろん、すべての養護教諭がママのような考え方を持っているわけではないと思いますが...
ミカの心の声「でもよりによって、初めて彼氏と会う場でこんな話をするなんて…!避妊が大事なのは私もわかってるけど、気まずすぎる…!」ミカ、なだめるように小声で「ママ〜そういう話、今はやめてね」
母「えっ?でも重要なことだから、ちゃんと話しておくべきでしょう?」変な話とはまったく思ってない様子、気圧されるミカ。シュン「いや〜、そ、そうですよね〜あはは…」父「そ、そういえば!シュンくんって大学でなにを勉強してるの?」と話をそらす。隣で赤くなったり青くなったりで忙しそうなミカと、よくわかってなさそうな母。その後、シュンが帰宅した後に3人で片付けをしている。は〜とため息をつくミカ。
ミカ「ママさ、さっき急に避妊の話したの、結構気まずかったよ」母「え〜?でも大事な話だからね〜」ミカ「それはわかるけど…私もシュンもびっくりしたんだって」とんっとコップを流し台に置く。
ミカ「ママが性についてオープンに話すことを大事にしてるのは昔から知ってるけど、私には私のペースがあるでしょ?性についての話はもちろん恥ずかしいことじゃない。でも、人前で話すかどうかは私たちが決めることだし…もちろんシュンにもシュンのペースがあるし、今日は初対面だったし…」
母、それを聞いて少し考えるように「ふ〜ん…たしかにそうだね...」ミカ「ママが私たちのことを心配してくれてるのはわかるし、嬉しいよ。だからこそ、もう少しタイミングとか、私たちのプライバシーを尊重してほしいなって」
母は納得した様子で「わかった、気をつけるね、ごめん」ミカ「うん、気をつけてね」ふたりで椅子に座る。母「…シュン君、とってもいい子だったね」ミカ、はにかみながら「知ってる〜」と返す。おだやかな雰囲気。
母「よし、次はシュンくんと一緒にケーキでも作ろうか!」ミカ「いや、次の予定決めるの早くない!?」そんな2人を食器を洗いながらニコニコ見守っている父。ミカモノローグ「母とちゃんと話せたことで、心のモヤモヤが少し晴れた気がしました。母のちょっとオープンすぎる性格は相変わらずだけど、こうやってしっかり話し合えたのは大きな一歩」
ミカモノローグ「たとえ親子でも、お互いのペースやプライバシーを大事にできる関係を築いていきたい。そう思った出来事でした」「境界線は大事だからね」とお互いの周りの円を書いているミカ、それを見てOKと納得する母のイラスト。シュンにLINEで「今日はありがとう、うちのママが急に踏み込んだこと言ってごめん!」と送るミカ。
シュンの返事「気遣いありがと!あの場では言えなかったけど、たしかに大切なことだよね。お母さんとお父さん、素敵な人だね!」猫のスタンプが送られてくる。それを見たミカ「ひとまずよかった…」と一安心。ミカモノローグ「その後、シュンとママが仲良しになるのは、もう少し先の話」おわり。

【マンガで解説】バウンダリー(境界線)って何?

性についてオープンすぎる母の話

みなさんは、性や身体にまつわる話題に対してどんな印象を持っていますか?

日本社会には今なお、

「性について話すのははしたない」
「そんなことは口にすべきではない」

という空気が根強く残っています。

自分の身体を守り、まわりの人と安心して関係を築くために、性に関する知識はとても大切。ですが、こうしたスティグマが残っていると、大切な知識を学ぶことが難しい社会につながってしまいます。だからこそ、性をタブー視せずにオープンに語れる空気はとても重要なのです。

だからといって、「なんでも率直に話せばいい」という話でもないのが性の話題の難しいところでもあります。なぜなら、性の話題は、ときにとてもプライベートな領域に関わるものだからです。

では、どのようにバランスを取りながら性について学び、語ることが必要なのでしょうか?

その手がかりとなるのが「バウンダリー」という考え方。直訳すると「境界線」で、他者との間に設ける心理的・感情的・身体的な境界線を指す言葉です。

今回の記事では、とある大学生が、初めて彼氏を家に招いた際の体験談マンガを通じて、あらためてバウンダリーの意味や、バウンダリーを侵害しないために気をつけたほうがよいことについて考えてみようと思います。

「心の皮膚」バウンダリーってどんなもの?

初めにも述べた通り、バウンダリーとは「私は私で、あなたはあなた」というように、ある人がほかの誰かとの間に設ける心理的、感情的、身体的な境界線のことです。バウンダリーの分厚さや位置は個人ごとに異なり、感覚も人それぞれです。

皮膚が外からの刺激や異物から身体を守っているように、バウンダリーもまた、自分と他者を区切り、自分の気持ちや権利を守ってくれます。

しかしこの境界がゆるむと、他者との距離があいまいになり、相手の考えや感情が自分のものと混ざってしまうことがあります。

頭では「自分の気持ち」と「他人の気持ち」は別々だとわかっていても、ついごちゃ混ぜになってしまう瞬間に、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。

たとえば今回の体験談では、性教育に熱心な母親が「避妊は大切なことだから、きちんと伝えておかないと」と考え、ミカ(娘)とシュン(娘の彼氏)の前で避妊の重要性を強調する場面が出てきます。

けれどそのとき、

  • ミカやシュンがどう感じていたのか
  • その場で避妊というプライベートな話題を出したかったのかどうか

は、考慮されていませんでした。

つまり、「性についての重要なことはオープンに語っても問題ない」というのは母親の考えであって、娘であるミカやその彼氏のシュン自身の意向ではなかったのです。この場面は、性というプライベートな話題についてのバウンダリーが越えられてしまっている一例といえます。

バウンダリーを侵害するってどういうこと?

今回のマンガに描かれていたように、親密な関係ではバウンダリーの尊重が後回しになってしまうことがあります。ここでは、家族や恋人、友人との間で起こりやすいバウンダリー侵害の例をいくつか挙げてみましょう。

家族・親族間で起こりうる例

  • 勝手に部屋や持ち物をのぞく
  • 「あなたのことを思って言っている」と意見を押し付ける
  • 許可なく写真をSNSに投稿する
  • 「結婚はまだ?」「子どもは?」などプライベートに踏み込む質問を繰り返す

恋人・友人間で起こりうる例

  • 相手の持ち物(スマホ・日記など)を勝手に開けて見る
  • 相手が望んでいないスキンシップを強要する
  • 「ひとりの時間がほしい」と言っても会おうとする/連絡を強要する
  • 言いたくないことを「教えてよ」「秘密にしないで」としつこく聞き出そうとする

身近な人によるこうした行為は、

「家族だから干渉してもいい」
「恋人だから境界はない」

といった決めつけによって、加害性が見すごされてしまいがちです。

しかし、たとえ親密な関係であっても、むやみにバウンダリーを踏み越えてしまうと、気づかぬうちに相手の安心や尊厳を奪ってしまうこともあるのです。

マンガでミカが母親に伝えたように、本当に大切にしたい関係だからこそ、境界線を越えないよう気をつけていくことが大切でなのではないでしょうか。

バウンダリーを守るためにできること

では、お互いのバウンダリーを尊重し、守るためには、具体的にどのようなことに気をつけていけばよいのでしょうか。

確認する習慣を持つ

行動を起こす前に、相手の気持ちや意向を確認しましょう。「〇〇について話してもいい?」「手を握ってもいい?」と尋ねるだけで、相手が安心できる状況につなげることができます。

NOを尊重する

相手が「嫌だ」または「今はちょっと…」と言った場合、その意見を尊重しましょう。

コミュニケーションを深める

普段からお互いの感覚や価値観について話すことで、どのようなバウンダリーがあるのか理解しやすくなります。

自分のバウンダリーも明確にする

自分自身がどこまで許容できるのかを理解し、それを相手に伝えることも大切です。これにより、対等で健全な関係を築くことができます。

こうした小さな声かけや確認を積み重ねていくことが、相手にとって「安心して一緒にいられる関係」につながっていくはずです。

とはいえ、親子や年上・年下、職場での上司と部下など、立場が不均衡な関係では、声をあげるのが難しいことも多いものです。そうした場合は必要に応じて距離をとったり、第三者に相談したりすることも、より健全な関係を築いていくために役に立つかもしれません。

さいごに

性について語ることは、知識を深めたり、自分や相手を守ったりするうえで欠かせないものです。けれど同時に、それはとても個人的で繊細な領域にもかかわります。

バウンダリーは、人と人とが心地よくつながるための大切な線引きです。けれど、その線は目に見えるものではなく、人によって感じ方も違うもの。ある人にとっては「気にならないこと」でも、別の人には「深く踏み込まれた」と感じられることがあります。だからこそ、相手の気持ちに耳を傾けたり、「これは大丈夫?」と一声かけたりすることがとても大切です。

親しい関係のなかでこそ、「きっと大丈夫だろう」と思い込むのではなく、ひとつひとつ確かめながらやりとりする。その積み重ねが、お互いに安心できる関係をつくっていくのではないでしょうか。

参考
https://co-coco.jp/series/study/boundary
https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/education/93257/
https://www.koka.ac.jp/welfare/news/5233